論説

【官民チーム10年】「つなぐ」役目、徹底を(8月29日)

2025/08/29 09:13

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 東京電力福島第1原発事故の被災地の生業再建を目指す福島相双復興官民合同チーム(福島相双復興推進機構)は今月、発足10年を迎えた。個別訪問を通じて、2600者超の事業再開を後押しした。今後は、活動で生まれた商品、技術を県内外にいかに広め、地域の持続的な産業振興に結び付けていくかが課題となる。「つなぐ」こそ最も重要なテーマと言える。

 公益社団法人の推進機構を中核とする合同チームは国、県、東電をはじめとした民間企業などから派遣された職員約260人が業務に当たっている。これまでの個別訪問先は製造、小売、サービス、飲食、宿泊など約6千者に及ぶ。悩み事を傾聴し、それぞれの置かれた状況を踏まえ、のれんをかけ直すための各種支援に力を注いできた。再開件数は2614者に上る。法人も含め農業経営約2800者を訪れ、1150者の営農再開の推進力となった。

 原発事故という特殊災害からの産業再生をゼロから手探りで進め、成果を上げた10年の歩みは評価されていい。災害対応の包括的な司令塔として誕生する防災庁に、そのノウハウを確実に引き継いでもらいたい。

 一方、難題もある。被災地の商圏は限られているからこそ、合同チームの取り組みを基に世に出た食品、各種飲料、6次化商品、農産品は県内外に販路を求めざるを得ない。宿泊施設では域外からの誘客が求められている。商談会や市場関係者を招いたツアーなど渉外活動を強めるべきではないか。特に、大消費地との仲介役としての機能強化も期待される。

 推進機構の会員として経団連、経済同友会、日本商工会議所、全国銀行協会といった大所が名を連ねており、今後さらに商品の販売ルートが拡充する大きな可能性も眠っているだろう。

 福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想による進出企業と技術面で地元企業を結び、移住した社員と地元商店の縁を生む役割も担ってほしい。技術革新の芽を拾い上げ、浪江町に開所した福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)に持ち込み、社会実装を実現できれば組織の存在意義は高まる。真価が問われるのは、これからだ。(菅野龍太)