県内に就職する大学生らを対象に、県が奨学金返済の一部を肩代わりする「奨学金返還支援事業」に想定を上回る応募が寄せられている。対象となる就職先を今年度から公務員を除く全産業に拡大したのが要因とみられる。県内企業の人手不足感が強まる中、官民挙げて事業のさらなる周知と活用を図り、若者の県内定着に結び付けたい。
事業は、日本学生支援機構の貸与型奨学金を受けた学生の就職後の返済負担を軽減することで、県内企業の人材確保を後押しするのが目的で、2016(平成28)年度に始まった。県内事業所に正規雇用で就職し、5年以上、県内で勤務・定住するなどの条件を満たせば、大卒者の場合、最大で153万6千円の支援が受けられる。
ただ、当初は就職先がエネルギー、医療、ロボット、環境・リサイクルなどの産業に限られていた。その後、「地域資源を生かした産業分野」として製造、商業、サービス、観光産業の中小企業にも対象が広がったが、50人の募集人数に満たない状況が続き、経済団体から全産業への拡充を求める声が上がっていた。
公務員を除く全産業に拡大された今年度は、大学生らと既卒者を対象にした1次募集に、想定していた25人の2倍近い50人程度の応募があった。秋には大学3年生ら向けの2次募集が予定されている。県は9月定例県議会に事業費を増額する補正予算案を提出する考えだが、できるだけ多くの学生が活用し、県内企業に定着できるよう十分な予算措置を講じてほしい。
日本学生支援機構の貸与型奨学金を利用した人に生活設計への影響などを尋ねた労働者福祉中央協議会の調査では、返済が「結婚」「出産」「子育て」に影響しているとの回答がそれぞれ4割前後に上った。こうした不安を取り除くことは、県内企業の人材確保にとどまらず、少子化対策としても有効な手だての一つと言える。
事業の拡充と持続的な運営には安定的な財源の確保が求められる。官民が連携し、奨学金返還支援に特化した基金を創設するのも一案だろう。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興には若い世代の活力が欠かせない。国の復興財源の活用も検討すべきだ。(紺野正人)