論説

【戦後80年 戦中の郵便】散逸防ぐ対策必要(9月3日)

2025/09/03 09:10

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 戦地にいる兵士から家族へ、家族から戦地へ届けられた手紙やはがきが今も残る。そうした実物が、会津若松市の県立博物館で15日まで開かれている企画展「私たちの戦争体験」で紹介されている。戦後80年が過ぎ、戦争体験者が先細りする中、当時の人々が記した思いは、反戦への強いメッセージでもある。その価値を再確認し、散逸を防ぐ対策が必要になる。

 こうした手紙やはがきは軍事郵便と呼ばれる。戦地と銃後をつなぐ特別制度で、各国が設けた。日本では日清戦争が勃発した1894(明治27)年に始まり、太平洋戦争後の1946(昭和21)年に廃止となった。戦地から送るのは無料で、戦地へは切手代がかかった。内容を確認する検閲があり、軍隊の行動が分かる日時や所在地の記載などは制限され、墨で塗りつぶされたという。

 県立博物館の企画展では、戦死した県内ゆかりの5人が書いた軍事郵便が紹介されている。妻、子、母を気遣い、近況を知らせる言葉がつづられている。「字は人を表す」というが、筆跡や行間から、書いた当時の心の内がにじむ。家族との再会をどれだけ願っていたか。その無念は計り知れない。県内各地で同様の展示が行われ、幅広い世代が足を運ぶよう願う。

 各家に眠る軍事郵便は少なくないと考えられている。それぞれが唯一無二の貴重な存在だ。子孫や関係者がその価値を再認識し、代々受け継ぎ大事に保管されたとしても、いずれ限界が来るだろう。少子化や核家族化の影響で将来的に処分される可能性も否定できない。戦禍を知る世代の超高齢化が進む中、永久的な保管に向けて公的な受け皿が必要になる。

 一方、博物館や資料館といった公的施設が収蔵できる量には限りがあり、すべてを受け入れるのは困難だ。受け入れや保管、展示を担う市民団体の活動を助成したり、デジタルデータで残したりする工夫も急務と言える。

 県立博物館の企画展の担当学芸員は戦時下に記された膨大な郵便物を解読、研究する人が少ない点を課題に挙げる。学校教育の場でも軍事郵便を取り上げ、子どもの関心を高めてはどうか。先人の苦悩に思いをはせ、平和を誓う教材になる。(三神尚子)