

こけしファンが独学で生み出した創作こけしに熱い視線が注がれている。福島県下郷町の湯野上温泉の民宿で働く綱木美和さん(46)は、かやぶき屋根の駅舎が特徴の湯野上温泉駅を題材にした「ゆのかみこけし」を自宅の工房で手がける。県の観光情報紙の表紙を飾り、町はふるさと納税の返礼品として採用する予定だ。観光地・大内宿の入り口にある温泉地の宿泊客は減少傾向にある。古里の魅力を広く伝え、「にぎわい回復の一助にしたい」と意気込む。
阿賀川の川音が聞こえる自宅で、綱木さんは筆で丁寧に絵付けする。作品は全て手作りだ。ヒノキの角材を切り、専用の機械で削って形を整える。
代表的な作品は会津鉄道湯野上温泉駅をイメージした。かやぶき屋根の形の帽子を頭に載せ、茶色で着色し浴衣を着たように絵付けする。高さは8~15センチ。高校時代、会津若松市の学校に駅から列車で通った。毎日眺めていた地域のシンボルは心に刻まれている。「湯野上温泉の魅力を伝えられる」と思い出の場所をモチーフにした。
こけし好きが高じて制作を始めた。神奈川県鎌倉市に住んでいた30歳の時、知人の影響でファンになった。以来、東北地方の産地を回り、買い集めてきた。
15年ほど前、家業を手伝い始めた。すると、以前ほどの活気がない古里に心を痛めた。町によると、温泉の民宿や旅館は最盛期の約30年前には30軒近くあったが、高齢化などで今は約20軒。年間約17万人いた宿泊者は昨年約2万8千人になった。こけしファンは作品を手に取るため産地に足を運んでくれる。オリジナルのこけしで人を呼び込む―。2年前に一念発起し、準備を始めた。
木材を切る機械を購入し、専門書や動画で作り方を学んだ。1年ほどかけ、材料の選定や切り方、絵付け法などを試行錯誤した。刻字が趣味の父の影響で木材の扱いには慣れていた。子どもの頃から絵を描くのが好きだった。昨年4月に制作を始め、愛らしい表情とユニークな姿が好評を博した。今では「福島県の思い出」など要望に合わせたオーダーメードも受け、月40件以上の注文がある。温泉街を訪れる人やファンを一人でも増やそうと、実家の民宿で絵付けを体験できるようにした。地域のイベントでワークショップも開催している。
今年、観光情報紙「ふくしまほんものの旅」の表紙に起用され、地元の注目度が高まった。町はふるさと納税の返礼品として魅力を伝える方針だ。「古里ならではのお土産品として愛されるようにさらに努力を重ねる」。真っすぐなまなざしで語った。
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ゆのかみこけしは下郷町の民宿「紫泉」と福島市のent、Books&Cafeコトウで販売している。価格は2300円(税込み)から。問い合わせはインスタグラム(@YUNOKAMIKOKESHI)へ。