旧豊田貯水池(9月6日)

2025/09/06 09:08

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 猛暑、酷暑、炎暑と酷評された夏の暑さが、ようやく静まり始めたか。朝晩の空気は秋めき、寝苦しさから解放されてきた。夜間の虫の声、頬をなでるそよ風、高く澄んだ空に季節の移ろいを実感する▼青空に流れる雲をみかけると、秋の秀歌を多く残した詩人八木重吉の一作を思い出す。宗教詩人と呼ばれる。〈彫られた/空の/しずけさ/無辺際の/ちからづよい/その木地に/ひたり! と/あてられたる/さやかにも/一刀の跡〉。大空という木地を鮮やかに彫るのは、神のなせる技か▼郡山市の旧豊田貯水池は初秋の空に向かって口を開けている。東京ドーム二つ分ほどの広さがある。視線を遮る建物は周囲になく、街中にあって開放感に満ちる。一周1キロほどの園路の北側は木片が敷かれ、松並木の枝に覆われて歴史が薫る。中でも樹齢300年とされるアカマツは圧倒的な存在感を示す▼貯水池は農業用ため池や飲用貯水池として使われた。水を抜いてから12年がたつ。安積開拓につながる価値があり、防災や景観といった観点からの利活用が求められている。散策しながら思索してみる。流れる雲が、経年の宿題の最適解を運んできてはくれまいか。<2025・9・6>