会津大学の月火星箱庭構想が高く評価され、順調に資金を獲得し発展している。国の福島イノベーション・コースト構想のもと地元企業と福島復興に資するもので、福島の技術を世界に売り込む仕組みとして期待されている。
大竹真紀子客員教授らが提唱し宇宙情報科学研究センター教員が進める同構想は、4つのパートからなる。地球月間の通信伝搬遅延や障害を模擬できる環境『リモート箱庭』は、小川佳子・山本圭香先生の2女性教員が主導し、福島県の補助金で実施している。地球から38万キロ離れた月とは往復で約2秒半の遅延が生じ、通常の通信プロトコルによる遠隔制御ができない。それでも動作する頑健な運用システムの開発が必要で、それを試験する環境として注目されている。地上用途として、災害現場や中山間地域における衛星通信環境下のシステム検証も見込まれている。
また昨秋、福島ロボットテストフィールドに造られた模擬月面クレーター走行路『リアル箱庭』は、会津大学ベーシッククラスター代表で南相馬在勤の山田竜平先生が主導している。「電源と通信基盤が整っている、模擬月面砂を敷設した屋外不整地」であり、内外の関心を集めている。これとデジタルツインを成してローバー運用などが模擬できる『ヴァーチャル箱庭』は、大竹先生代表の文科省宇宙航空科学技術推進委託費で開発が始まり、今年度から山本圭香・小川佳子・矢口勇一先生らのプロジェクトに引き継がれた。
地上に月面試験環境を実現する最後のピース『箱庭チャンバー』は、出村裕英先生らが主導し、JAXA宇宙戦略基金・SX研究開発拠点(代表・立命館大学)の一環で会津大学先端ICTラボに設置される。クリーンルームのような熱真空チャンバーと異なり、模擬月面砂を敷いた環境で吸着水までどう脱気するかが技術的課題である。また、地球と違って接地が取れない月面では、帯電した粉塵[じん]が付着したり可動部にかみ込んだりする不具合が生じやすく、帯電粉塵の挙動を解明しその特性を踏まえた防塵試験手順を確立しなければならない。
これまで清浄なクリーンルームで製造する人工衛星で航空宇宙産業の振興や町おこしをする例はあったが、地上移動体の真空下防塵・耐温度・耐電磁性能を検証する施設はどこにも無かった。地元企業がこうした施設や環境で試験することで従来と違う宇宙品質の部品やシステムを供給する追い風になるだろう。国内外の企業が宇宙開発、特に月面活動に参入しているが、多品種少量生産が求められやすく、大企業より小回りのきく中小企業の方が強みを発揮しやすい。
新たに6月に閣議決定された復興事業全体方針で、イノベ構想を軸にした「実証の聖地」と宇宙関連の先進的取組等がうたわれた。月火星箱庭構想を通じて、福島の元気な姿を世界に伝えてほしい。
(角山茂章 会津大学元学長)