論説

【石破首相退陣表明】地方創生の旗降ろすな(9月8日)

2025/09/08 09:08

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 昨年10月に発足した石破政権が、わずか1年足らずで幕を引く。石破茂首相が7日、退陣を表明した。国民の生活を苦しめている物価高をはじめ、国内外で多くの難題に直面している。政治空白は許されない。速やかに後継を選出し、国民生活を守る手だてを講じなければならない。

 記者会見で石破首相は「(自民党総裁選前倒しの)意思確認に進んでは党内に決定的な分断を生みかねないと考えた」と辞任の理由を述べた。既に政権の要である森山裕幹事長をはじめ党四役全員が辞意を伝え、総裁選の前倒し要求も拡大していた。今後の政権運営が立ちゆかなくなると判断したとみられる。衆院選、東京都議選、参院選の3連敗が確定した時点で辞任していれば党内の亀裂を深めずに済んだとの指摘もある。ただ、国難とも言える日米関税交渉の最中での難しい判断だったことは理解できる。

 自民党は新総裁を選ぶことになるが、新しい首相が誕生したとしても、衆参両院で与党が少数であることに変わりはない。党内で争いをしている場合ではなく、政治の安定に向けた責任を自覚しなければならない。

 喫緊の課題は物価高対策だろう。石破首相は物価高対策と、米関税措置を受けた国内対策が必要だとして「秋に経済対策を策定する」と5日に表明したばかりだ。47都道府県の最低賃金(時給)も出そろった。全国平均で過去最大の引き上げとなり、着実な実施には中小企業への支援策が欠かせない。記者会見で石破首相は「物価上昇を上回る賃金上昇を定着させ、実感してもらうためには、さらに取り組みを加速させる必要がある」と述べた。首相が代わることで、方針が揺らぐようなことがあってはならない。

 石破首相が掲げてきた「地方創生」もどうなるのか。人口減少の克服と東京一極集中の是正に向け、第2次安倍政権が2014(平成26)年に打ち出した政策で、石破首相が初代担当相を務めた。しかし、人口減少は進み、一極集中も続いている。政府は今年6月、今後10年の指針となる基本構想をまとめ、東京圏から地方に移住する若者を倍増させる目標を掲げた。取り組みは途に就いたばかりだ。決して旗を降ろすことのないよう願いたい。(紺野正人)