何故(9月9日)

2025/09/09 09:19

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 その短い詩はまず、一人の男の目前に広がる風景を紹介する。〈俯瞰図のようでもあり(中略)写実画のごとくにも〉と。一転、〈彼は 若年にして父を殺したその秋 母親は美しく発狂した〉で閉じる▼田村隆一の「腐刻画」だ。前半と後半の文脈に一体、どんな関係を見いだせばいいのか。何故、一つの作品として成立しているのか。フランスのアルチュール・ランボーは、母音に色を付けた。〈Aは黒、Eは白、Iは赤…〉。何故、Aは白でも赤でもなく黒なのか判然としない。幻覚を見ていた詩人というのだから、本人に聞いても…▼先に発表された全国学力テストの結果に、文学に付きまとう「何故」を思った。「国語が好き」と答えた県内の小学6年生、中学3年生はともに60%前半。日本語の奥行きに、もっと触れてほしい。言葉の芸術を味わう礎を養ってと願う。不思議に満ちた文芸の魅力を伝えれば、好奇心旺盛な子どもは乗ってくるかも▼ランボーによれば、「永遠」とは太陽と海が溶け合うことだそう。これまた、なぜか。疑問という名の大海原から飛び出て、想像の翼は大空を駆け巡る。彼ならその羽ばたきに、黄金の輝きを見て取るだろう。<2025・9・9>