北向き(9月10日)

2025/09/10 09:26

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 文豪太宰治は、富士山によく似合うと評した。その白いつぼみを、思わず手で包みたくなる月見草。園芸のホームページによると、日当たりのいい場所に生息するとされるが、正反対の印象がある▼どこか、暗い目立たぬ場所で人知れず咲いている。そんな先入観を抱いているのは、プロ野球の野村克也さんのせいではないか。「王や長嶋がヒマワリなら、俺はひっそりと日本海に咲く月見草」と語った。セ・リーグの2人は日当たりの良い南向きの住人。かたや、パ・リーグのノムさんは北向きにこもり、ひたすら技を磨いていたような…▼暮らしでも、北向きの部屋は南向きに比べ敬遠されがちだ。湿気がたまりやすく、カビが生えるイメージが付きまとう。意外や意外。最近、猛暑の影響で人気が急上昇している。物価高騰の折、家賃も割安。都内の不動産会社には問い合わせが相次ぎ、手持ちが満室になるケースもあるという。「風が吹けば何とか」の好例か▼「ぼやきのノムさん」にも光は当たった。年を経るごとに、実績が一つずつ積み重なる。戦後初の三冠王は、監督として3度、日本一のグラウンドに舞った。日陰の月見草だって、いずれ凜[りん]と咲く。<2025・9・10>