
福島県大熊町に移住した男女が28日に町内の義務教育施設「学び舎 ゆめの森」で結婚式を挙げる。「お世話になっている町民に感謝を伝えたい」。町内での挙式を希望する新婦に対し、町が会場の提供や運営面で協力。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興と地域活性化に向け、公共施設の活用の在り方を探る「実証事業」として共催する。公共施設を会場に町一体で祝福する「大熊モデル」をつくり上げたい考えだ。
「大熊の皆さんに喜んでもらえる式にしたいね」。新郎新婦の沖野昇平さん(32)と遠藤綾夏さん(30)は晴れの日を待ちわびる。式当日に婚姻届を提出するつもりだ。
2人とも町の教育に携わる。昇平さんは教育関連会社「イン・ザ・ライ」の代表を務め、ゆめの森と海外の子どもたちがオンラインで交流する授業を展開している。「町の力になりたい」と2023(令和5)年に東京都から移住した。
綾夏さんは、ゆめの森の放課後児童クラブ職員と通信制高校の教員を務める。出身地の福島県郡山市で教員をしていたが、昨春の人事異動を機に町に移り住んだ。「復興に向け、理想の地域をつくろうとする住民の意志を感じた」とすぐに町が好きになった。同じ移住者の友人も増え、「他人のことを私事と考えてくれる温かい人ばかり」と笑顔を見せる。
ゆめの森で子どもに関わる2人は次第に仲を深め、昨夏に結婚を決めた。「温かく迎え入れてくれた町民に感謝を伝える式を町内で挙げたい」。遠藤さんが思いを周囲に明かすと、ゆめの森の職員が「学校で式を挙げられないか」と町に掛け合ってくれた。2人の申し出を町側が快諾。ゆめの森を貸し出し、職員が会場運営などを手伝う。町は「今回の式が公共施設の利活用の面で新たな発見となる可能性がある」(生涯学習課)と意義を強調する。
式当日はゆめの森の子どもも招待する。200人超が参列する予定だ。町交流施設linkる大熊で披露宴を催す。2人は「大熊の魅力を発信する式にする。町がさらににぎわう一助になればうれしい」と願う。