福島県郡山市の受験生死亡事故 危険運転を認定 地裁郡山 男に懲役12年判決

2025/09/18 11:06

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 福島県郡山市のJR郡山駅前で酒気帯び状態で乗用車を運転し、大阪府から受験で訪れていた予備校生女性(19)をはねて死亡させたなどとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた郡山市の無職、被告の男(35)の裁判員裁判の判決公判は17日、地裁郡山支部で開かれた。下山洋司裁判長は危険運転致死傷罪の成立を認め、被告に懲役12年(求刑懲役16年)を言い渡した。


 危険運転致死傷罪の構成要件の一つ「赤信号を殊更[ことさら]に無視」したかどうかが争点だった。弁護側は、被告は飲酒や眠気の影響で注意力散漫だったと説明。赤信号を見落とした過失を主張していた。

 下山裁判長は、被告が事故前、衝突しそうになったタクシーをかわすなど対向車の有無などを認識して運転していたとして「信号表示を認識することができなかった事情は見当たらない」と指摘した。交差点で加速している走行状況などから故意性を認め、危険運転致死傷罪が成立すると判断した。

 さらに、被害者の無念さや遺族の精神的苦痛は「筆舌に尽くしがたいものであった」と推し量った。被告は公判中に反省の言葉を述べたが、「終始不合理な弁解をし、真摯[しんし]に事故と向き合っているとはいえない」と非難した。

 量刑については運転の危険性や事故までの経緯が比較的重い部類に属するとした一方、死亡した被害者が1人であることなどから「検察が主張する最も重い部類に属する事案とまではいえない」とした。

 被告の弁護人は「判決内容を精査し控訴するか検討する」と述べた。

 判決などによると、被告は1月22日午前6時30分ごろ、酒気を帯びて車を運転し、市道交差点の赤信号を殊更に無視して時速約70キロで交差点内に進入。横断歩道を歩いていた大阪府箕面市、予備校生女性(19)をはねて死亡させた。付近で自転車に乗っていた女性に全治約2週間のけがを負わせた。


【判決の骨子】

◆被告を懲役12年とする

◆危険運転致死傷罪が成立する

◆交差点で一切減速することなく加速していることなどから「故意性」が認められ、「赤信号を殊更に無視」に該当する

◆同種事案の量刑傾向を踏まえ、死亡被害者が1人である点などを鑑みると、最も重い部類の事案とまではいえない


■解説 悪質運転抑止へつながる一助に

 地裁郡山支部は被告の男に対し、危険運転致死傷罪の構成要件の一つ「赤信号を殊更に無視」を認定した。「殊更」には曖昧さがあり、立証ハードルが高いとされる。交通犯罪に詳しい元同志社大教授の川本哲郎氏(74)=刑事法=は今回、検察が十分な証拠に基づいて主張した内容が裁判所に認められたことで、悪質な自動車運転の抑止につながる一助になると指摘した。

 被告は飲酒運転し、時速約70キロで交差点に進入し事故を起こした。検察は危険運転罪が成立する程度の「飲酒運転」と「高速度」ではないと判断したとみられる。「赤信号を殊更に無視」の立証に絞り、事故前の運転状況や道路の環境などを丹念に調べた。

 被告が事故現場付近に居住し、周辺の道路に存在する交差点と信号機の位置関係を把握していたことも証拠として積み上げた。

 全国では無謀な運転による事故が相次ぎ、危険運転致死傷罪が不成立になるケースが散見される。郡山市のような悲劇を防ぐために、社会が今回の事故を重く受け止めなければならない。(郡山本社報道部・中川凜)