
「赤色信号を殊更[ことさら]に無視し、交差点に進入したと認められるため危険運転致死傷罪が成立する」。地裁郡山支部で17日に開かれた福島県郡山市の無職、被告の男(35)の裁判員裁判判決公判。酒を飲み、スピードを出したまま信号を無視し大学受験の10代女性をはねたとして危険運転致死傷罪の成立を認定、故意性があると断じた。言い渡された量刑は懲役12年(求刑懲役16年)―。被害女性の母親は「あまりに刑が軽い」とコメントし、危険運転への厳罰化を訴えた。
下山洋司裁判長は判決理由で、被告が体にアルコールが残っていることを自覚しながら、制限速度を約30キロ上回り信号を無視したとし「重大な結果を生じさせる危険性が高い無謀な運転」と強調した。
検察側は、事故発生場所の手前の交差点で赤信号を無視して右折した後、衝突しそうになったタクシーや後続車両をかわして自分の車線に戻り、事故現場の車線変更をし蛇行することなく進行したと指摘。赤信号を無視した4カ所で、赤色表示に切り替わってから8~13秒後に通過し、一貫して加速している点などを詳細に立証した。
地裁は検察側の主張に沿う形で、「各信号機が赤色信号を表示していたとしても、これを無視して進行しようと考えていたものと認められる」と断じた。
被告側の「飲酒の影響により眠気が強く、ところどころ記憶がない」「目をこすっていたり、視界がぼやけていたから赤信号を認識できなかった」などとの主張について、下山裁判長は「タクシーに衝突しそうになる事態に直面すれば覚醒するはず。再度、強い眠気を感じるとも思われない」「そのような長時間、目をこすったり、エアコンのダイヤルを見たりしたという点は不自然」で「被告人の供述は信用できない」「不合理な弁解に終始している」と退けた。
横断歩道を歩いていた女性に「全く落ち度はない」とし、「歯科医師になる夢のために努力してきたのに、大学受験当日の朝に理不尽にも一瞬で命を絶たれた無念は察するに余りある」と述べた。さらに、延命措置の中止を決断せざるを得なかった遺族の精神的苦痛は「筆舌に尽くしがたい」と推し量った。
33の傍聴席に対し、約4倍の134人が傍聴券を求めた。頭を刈り上げて臨んだ被告は終始、身じろぎせず、前を向いて判決の言い渡しを聞いていた。
事故現場にはこの日、多くの花や飲み物などが供えられた。被害女性の母親はコメントで「これ以上、私たちのような悲しい思いをする家族が出ないことを切に願います」と結んだ。
■母親コメント全文
郡山市で車にはねられ死亡した10代女性の母親が17日、代理人弁護士を通じて公表したコメント全文は次の通り。
裁判所が、危険運転致死傷罪の成立を認め、私たち家族の悲しみや、被告人を許せない気持ちを十分酌んでくださったことは良かったですが、それにもかかわらず懲役12年というのはあまりに刑が軽いと思います。
被告は、飲酒をしてスピードを出したまま4カ所も信号無視をして娘の命を奪ったのにどうしてこんなに刑が軽いのでしょうか。
裁判でも被告は危険運転致死傷罪の成立を争い、言い訳ばかりを繰り返し反省の態度は一切見られず、その態度を見て私たちは怒りと悲しみを深めるばかりでした。
他の同種事件と比較して出した判決なのかもしれませんが、私たち家族にとっては大切な娘の命が奪われたのですから到底納得できないものです。
今後、危険運転の罪についてはさらなる厳罰化を強く望むとともに、これ以上私たちのような悲しい思いをする家族が出ないことを切に願います。
■県警や検察執念の捜査 危険運転成立向け
県警や検察などは、事故発生当初から危険運転致死傷罪の成立を目指し、証拠を丹念に積み上げる執念の捜査を進めてきた。ある捜査関係者は「遺族の無念を少しでも晴らしたい」との思いが、捜査員を突き動かす原動力になったと明かす。
事故は1月22日に発生。県警は事故を受け毎月22日を飲酒運転根絶に向けた取り組みの強化日に定め、取り締まりや啓発活動に注力している。