福島医大(福島市)の前立腺がん新薬 実用化へ治験開始 難治性患者への新たな選択肢に

2025/09/19 10:38

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アスタチンを製造する福島医大の「サイクロトロン」。手前は機能を説明する高橋先端臨床研究センター教授
アスタチンを製造する福島医大の「サイクロトロン」。手前は機能を説明する高橋先端臨床研究センター教授

 福島医大(福島市)は開発中の前立腺がんの新治療薬「211At―NpG―PSMA」の効果を調べる、医師主導治験を始めると18日、発表した。新薬は放射性核種のアスタチンを活用し、既存の治療法が効きにくい前立腺がんへの効果が見込まれている。5~10年間の治験で安全性や治療効果などを精査した上で、実用化に向けて薬事承認を目指す。

 福島医大は従来の治療法が効きにくい「ホルモン抵抗性前立腺がん」への新治療薬の開発に向け、2022(令和4)年に非臨床試験を始めた。マウスによる実験などで十分な効果が認められたため、先月に国内創薬を規制する医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験届を提出し、承認された。治験対象の患者が見つかり次第、ヒトへの投薬を開始する。

 治験は3段階に分けて行う。第1段階は2年間で4~6人に少量の薬液を投与し、人体への安全性を確認する。第2段階は投与量を増やし、治療への有効性を調べる。最終段階で既存薬との比較を行い、実用化に向けた最終確認を行う。

 新薬の開発では、同大が所有する機械「サイクロトロン」で、がん細胞をアルファ線で攻撃するアスタチンを製造する。アスタチンに、がん細胞の表面にあるタンパク質にくっつくよう設計した物質を結合させて投与する。実用化されれば難治性患者への新たな選択肢になると期待される。

 18日は先端臨床研究センターの高橋和弘教授らが機械を説明した。竹之下誠一理事長は「放射線が持つ力を命と健康を守る『希望の光』に昇華させる試みだ。福島発の放射性薬剤が人類を救うと評価されるように、研究成果を社会に還元する」と意欲を語った。

 前立腺がんは診断技術の進歩や高齢化を背景に早期発見が増え、患者数が増えている。厚生労働省の調査では2021年の新規罹患[りかん]者は約9万6千人。男性ホルモンの分泌や働きを抑えてがん細胞の増殖を防ぐ「ホルモン療法」や、抗がん剤を用いる化学療法が標準的な治療だが、十分な効果を得られない場合も多く年間約1万2千人が死亡している。