福島県の相馬沖スルメイカ豊漁 昨年の2.5倍、水温が関係か 加工業者、動向注視

2025/09/21 09:46

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 近年、不漁だった魚介類が帰ってきた―。福島県の相馬沖でスルメイカが豊漁となり相馬市の港は活気づく。今月1日に今季の底引き網漁が開始されて以降、昨年の約2・5倍の漁獲量だ。ベテラン漁師からは「こんなに取れた年はない」と驚きの声が上がる。サンマも一転して豊漁に。これから水揚げを控えるいわき市小名浜の関係者は「たくさん揚がって」と願う。水温の関係か、7年以上続いた黒潮大蛇行が今年終息した影響か、専門家はさまざまな可能性を指摘する。ただ、この状況がいつまで続くかは不透明で、加工業者らは動向を注視する。


 相馬市の松川浦漁港に底引き網漁船が戻るとスルメイカが次々に水揚げされる。「明神丸」の船主高橋通さん(70)は「長年船に乗っているがこんなに取れたことはない」と驚く。今季はタコやアンコウ、カレイなどの漁獲が少なく「まとまった量が網に入り、ありがたい」と目を細める。

 相馬双葉漁協によると、今月1日から19日までの水揚げ量は約160トンで昨年同期の約2・5倍。漁協は17日から、自主的に1船当たり1日2トンの漁獲制限を設けた。スルメイカの漁獲量は海洋環境の変化などでここ10年、大きく減少した。昨年度の全国の漁獲量は過去最低の約1万8千トンだった。相馬市の浜の駅松川浦では、スルメイカが並ぶとすぐに売れる人気ぶり。値段は昨年に比べ3~5割ほど安い。関係者は「このまま安定して入荷してきてほしい」と願う。

 ただ、喜んでばかりもいられない。これまで水揚げが少なかったことから、大量にイカを加工できる業者は地元に乏しく、多くは宮城県の業者に運ばれる。相馬市の水産加工業「ループ食品」はイカの取り扱いを大幅に増やしているが、身を切り分けたり、ワタを抜くのは手作業。森拓也社長(39)は「今後も安定的に水揚げがあれば、イカを自動でさばく機械の導入を検討したい」と話す。

 水産庁によると、2017(平成29)年から続いていた黒潮の流れが大きく曲がる現象「黒潮大蛇行」が今年4月に終息し、スルメイカの生息域の海水温などが成長に適した水準に下がった可能性があるという。

 福島県沖ではトラフグの水揚げが急増し、相馬市では「福とら」のブランドで売り出している。ただ、海洋環境の変化で水揚げ量が減る可能性もあり、県水産資源研究所の神山享一副所長は「今後もイカなどの豊漁が続くか動向に注目したい」と話す。

   ◇    ◇

 秋の魚の代名詞・サンマも一転して豊漁だ。県内のスーパーにも身ぶりが良いサンマが並んでいる。例年、10月ごろに水揚げが始まるいわき市小名浜の漁業関係者は「良いサンマが水揚げされるか推移を見守りたい」と状況を注視する。

 市内の水産加工業・上野台豊商店の上野台優社長(49)は生鮮のサンマの他、地元の名物郷土料理「サンマのポーポー焼き」を販売している。長年続いた不漁でサンマを加工する業者がめっきり減ったといい「今回を機に(サンマの加工が)盛り上がれば」と期待する。