論説

【復興新聞】被災地を世界に伝えて(9月24日)

2025/09/24 09:23

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 被災地で新たな学びが進められている。神田外語大(千葉市)の学生は夏休みを利用し、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から15年を前にした双葉郡を取材した。日本語と英語両版の「震災復興新聞」を発行し、10月の学園祭で紹介し、在日英国大使館、交流のある海外の大学などを通して配布する。外国語を学ぶ学生が若者の視点で「ふくしま」の今を世界に発信する取り組みは、風化を防ぎ、記憶をともに継承する試みとして意義深い。
 同大と天栄村の英語研修施設ブリティッシュヒルズなどを運営する神田外語グループが、震災から15年の節目に合わせて企画した。外国語学部の3年生19人が参加している。人材育成などを目的にグループと包括連携協定を結んでいる県が活動を支援した。
 学生は研究教育施設や企業を訪れ、農業、水産業などに関わる住民から話を聞き、地元産の米や野菜、魚を食べた。取材メモには「希望」「誇り」「挑戦」といったキーワードが並んだ。復興の最前線で前向きに活動する人たちと向き合い、「伝える責任」が芽生えたようだ。報道機関とは異なる学生らしい率直な視点や素朴な疑問を発信できれば、国内外の同世代から共感を得られるだろう。
 英語版は日本語版の直訳ではなく、読み手に届く表現にしようと工夫を加える。ある女子学生はバナナを栽培する事業所の代表を取材し、「心の復興が最も大切」という言葉が印象に残ったと振り返った。社会基盤の整備が進む一方で、住民のコミュニティーは回復途上にあるという被災地の二面性を、どう伝えるか思考を巡らせる。この過程が深い学びにつながる。
 除染土の再利用について取材した男子学生は「ふくしま特有のさまざまな課題を社会全体で考え続けなければならない」と書いた。復興新聞を手にする国内外の読者が震災と原発事故を「自分たちの問題でもある」と受け止めるきっかけになってほしい。
 学生は語学学習の域を超えた経験を積んだ。震災の記憶を国際社会と次の世代へ伝える橋渡し役になり得る。卒業後、仕事や休暇で海外に出向く機会があれば、生の言葉で今回の経験を語り続けてもらいたい。(古川雄二)