
専門的な知識や技能をボランティアとして提供する「プロボノ人材」を活用し、東京電力福島第1原発事故の被災地復興につなげる取り組みが動き出した。福島相双復興推進機構(官民合同チーム)が今年度、新たに開始した。自らの能力を生かして社会貢献したいと考えている首都圏など都市部の人材が、福島県の被災12市町村で活動する企業や団体などと連携。風評払拭、販路開拓、関係人口の創出・拡大などを目指す。来年度以降、人材と連携先を倍増させるとともに、継続的な支援で復興の加速化につなげたい考えだ。
■IT、農業エキスパート、官僚…
事業の名称は「プロボノ共創プロジェクト」で概要は【イメージ】の通り。プロボノ人材活用でネットワークを持つNPO法人を通じて事業を展開する。
今年度は公募に対し「生成AIを活用し、企業や団体の業務効率化などで実績があるIT企業社員」「農林水産分野に精通し海外への販路開拓やプロモーションの経験を持つ他県の県庁職員」「国の補助金や助成金などの仕組みに詳しい中央省庁の官僚」らから応募があった。このうち、首都圏をはじめ石川、新潟、大阪各府県に住む20~70代の男女15人を選んだ。
支援を求める企業・団体も募り、①双葉郡で子育て支援などの活動をする「任意団体いわき・双葉の子育て応援コミュニティcotohana(コトハナ、富岡町)」②防災やまちづくりなどの事業を展開する「株式会社いのちとぶんか社(浪江町)」③古民家や耕作放棄地の利活用などに取り組む「一般社団法人nononowa(のののわ、田村市)」の3団体を選んだ。それぞれ提供するサービスの充実や販路拡大、人手不足解消、高い経営スキルなどを求めている。
官民合同チームは2015(平成27)年8月の設立以降、10年間にわたって被災12市町村の復興支援に取り組んできた。これまでは、企業の事業再建を重点に置いてきたが、地域の生活再建を進めるには、地元に根付いて活動する団体などをより積極的に支える必要があると判断した。今回、具体的な社会課題の解決を目指しており、5人で1チームを編成し3団体の活動に加わる。月1回のペースで直接被災12市町村に訪れ、フィールドワークや報告会などを開催するとともにオンラインミーティングを毎週実施する。12月末までに地域の課題を抽出し解決を図る。
プロジェクトに参加している東京都の大久保努さん(55)は通信系の企業に長年勤めシステムエンジニアとして活躍してきた。「活動を通じて知見を広げて人的ネットワークも構築したい」と意欲を見せる。
来年度はプロボノ人材を30人選び、6団体と連携する方針。その後も規模を拡大して被災12市町村全てでくまなく展開したい考えだ。官民合同チームによると、選ばれた15人の多くは継続的な支援に前向きな姿勢といい、川尻圭介まちづくり交流推進課長は「事業を通じてプロボノ人材と地元住民のつながりを構築し、被災地の課題解決につなげたい」と話している。
※プロボノ 「公共善のために」を意味するラテン語「pro bono publico」を語源とする言葉。仕事で培った専門的スキルや経験などをボランティアとして提供し、社会課題の解決につなげる取り組み。