

江戸時代末期創業で約200年の歴史を持つ福島県古殿町の酒蔵「豊国酒造」が、大規模な仕込み蔵の建て替えを行っている。老朽化した蔵を解体し、現代的なデザインの新たな蔵が完成間近だ。「人との接点が生まれるような、開かれた酒蔵にしたい」。日本酒文化の浸透に向け、杜氏の9代目矢内賢征さん(39)が一大プロジェクトに懸ける思いは強い。
古殿町の中心部。街道沿いにあり、日本酒「一歩己」などで知られる豊国酒造の門をくぐると、急ピッチで建設工事が進んでいた。矢内さんによると、元の蔵は少なくとも80年ほど前から増改築が繰り返されてきた。空調機能が不十分で「酒造りの最初と最後の工程の場所が隣り合うなどしていて、作業効率も悪かった」という。
木造の新たな蔵は約600平方メートル。広さはほぼ変わらないが、グレー基調でガラス窓を多く配置した開放的なデザインが特徴。矢内さんは「酒造りを身近に感じてもらえるよう、一部の作業を外からも見えるようにした」と語る。空調や動線も改善され、例年10月~3月ごろに行う酒造りが、9月~5月ごろまでできるようになる。年間18万リットルが頭打ちだった製造量も拡大可能で「酒造りの表現の幅がかなり広がる」と期待する。
2009(平成21)年に家業を継いでからブレずに取り組んだのが「伝統や格式を受け継ぎつつ、現代の嗜好に合わせた酒造り」だ。地元消費がほとんどだった販路を県内外だけでなく海外にも広げた。そうした意識は「蔵づくり」にも反映され、敷地内に芝生広場を作ってイベントを開いたり、蔵の壁面にウォールアートを施したりした。3年前には築100年の蔵を改修した交流施設「kuranoba(クラノバ)」をオープンさせた。
新たな仕込み蔵は10月には完成する予定で、これまで受け入れていなかった一般向けの蔵見学も始める。仕込み時期には間近で蔵人の仕事を見ることができ、試飲も可能だという。「日本酒文化の裾野を広げたい」。熱意あふれる若き蔵元の挑戦は続く。