日銀は「物価の番人」と呼ばれる。「生活を苦しめる物価高が続くのは、番人に力が足りないためか」との疑問が聞かれる。政界からも、是正に向けて対策を促す暗黙のシグナルが送られているとも伝わる。中央銀行が今ほど、自らの役割と政策の正当性、法で定められた自主性に広く理解を得る必要に迫られた局面は経験がなかろう。経済の健全性に対する不信を招かないためにも、福島市に置いている福島支店から広報活動を充実させるべきだ。
日銀法は、日銀の通貨と金融調節業務について「自主性は尊重されなければならない」と定めている。あらゆる圧力を排して中立・専門的な見地から景気のさじ加減を調整し、物価の安定を図るためだ。しかし、こうした立場がどれほど認識されているだろうか。
2022年の金融リテラシー調査(金融広報中央委員会)によると、「学校・勤務先で金融教育を受けた」との回答は7・1%にとどまった。「金利引き上げ・引き下げ」といった基本的な政策の意図、効果が幅広く理解されているかは疑問が残る。先日報じられた「上場投資信託(ETF)の売却」は景気にどう影響するのか、そもそも中央銀行という公的機関がなぜ変動リスクを抱えた投信を大量に保有しているのか、疑問を深めた国民は少なくあるまい。
日銀の業務運営方針を定めた「中期経営計画(2024~2028年度)」には、透明性の確保に向けて「政策や業務の説明責任を果たす」との行動原則が盛り込まれている。福島支店は学校、職場の研修、地域の学びの場で経済の仕組みや現状、中央銀行の立場と業務をプロの視点から解説している。従来の取り組みを強化してはどうか。この際、景気を熱しも冷ましもしない「中立金利」の概念から解きほぐせば、日本経済の現状がより把握しやすくなる。
われわれは今、一国のリーダーが中央銀行のトップを平然と侮辱する信じ難い光景を目の当たりにしている。専横的な政治は世界で勢いを増す。日本で仮に、国民負担の軽減をうたって金融緩和的な要求を日銀に求める動きが出るとすれば、現在の利上げの流れに逆行する。自主性を保つため予防線を早急に張り巡らせたい。(菅野龍太)