【震災 原発事故9年6カ月】増え続ける処理水 放出に懸念 政府の判断焦点

2020/09/13 19:09

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 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の取り扱い方針は決まっていない。貯蔵タンクの容量が限界に近づく中、政府の判断が焦点となっている。

 処理水の扱いを巡り政府小委員会は二月、処分方法として大気への水蒸気放出と海洋放出を「現実的な選択肢」とした上で監視体制構築など技術的な面から「海洋放出の方がより確実に実施できる」と政府に提言した。

 東電は福島第一原発敷地内の処理水のタンク容量は二〇二二(令和四)年夏に限界を迎えると主張し、原子力規制委員会は放出準備に二年間かかると指摘している。政府は地元をはじめ幅広い関係者から意見を聞いた上で、処分方針を決定する考えだ。

 政府はこれまで五回にわたり、県内外で意見聴取会を開いてきた。自治体、農業、漁業、流通団体の代表者、一般県民が参加し、放出への反対や丁寧な説明、風評対策の徹底を求める意見が出た。二日現在、県内の二十一市町村議会が、処分方針に反対したり、保管継続を求めたりする決議や意見書を可決した。

 政府による意見公募(パブリックコメント)は七月末に締め切られ、約三千六百件の意見が提出された。小委の提言に対し、放出への懸念や慎重な対応を求める内容が多いという。

 福島第一原発では、毎日約百八十トンの汚染水が発生し続けている。八月二十日現在、一度浄化した処理水(ストロンチウム処理水を含む)約百二十二万トンを千四十一基のタンクに保管。東電は年内に約百三十七万トン分のタンク確保を計画している。


※トリチウム

 水素の放射性同位体で三重水素とも呼ばれる。放射線のエネルギーは弱く、体内に取り込んだ際の人体への影響は放射性セシウムの約700分の1とされる。半減期は12.3年。自然界に存在するほか、原子炉内の核分裂などによっても生じる。水と性質が似ており、東京電力福島第一原発の多核種除去設備(ALPS)でも除去できない。国内外の通常の原発では希釈した上で海に放出している。


■処理水処分を巡る経過

2011(平成23)年3月11日 ▼東日本大震災、東京電力福島第一原発事故

2013年3月 ▼汚染水からトリチウム以外の放射性を取り除く多核種除去設備過去(ALPS)が試運転開始

2015年6月 ▼政府の有識者作業部会がトリチウムを含んだ処理水について海洋放出や地下埋設など五つの処分方法を提示

2016年4月 ▼海洋放出が最も短期間で低コストとの試算を作業部会が公表

11月 ▼政府小委員会が初会合

2017年7月 ▼東電の川村隆会長(当時)が報道各社のインタビューで海洋放出について「判断はもうしている」と発言

2018年7月 ▼政府小委が処理水の保管タンクを将来撤去する方針を了承

8月 ▼処理水にトリチウム以外の放射性物質が残留していることが発覚。月末の公聴会では海洋放出への反対表明が多数

2019(令和元)年8月 ▼タンクによる長期保管の可否が小委の議題に上る

9月 ▼処理水に関し、原田義昭環境相(当時)は記者会見で「所管外ではあるが、思い切って放出して希釈する他に選択肢はない」と発言

▼松井一郎大阪市長と吉村洋文大阪府知事は科学的に環境被害がないという国の確認などを条件に、大阪湾で放出する可能性に相次いで言及

2020年2月 ▼海や大気への放出に絞り込み、「海洋放出の方が確実に実施できる」と政府に提言する報告書を小委が公表

4~7月 ▼政府が県内外で関係者から意見聴取の会合開催。海洋放出に否定的な考え、丁寧な説明や風評対策を求める意見が出る

2022年夏ごろ ▼福島第一原発敷地内の処理水保管タンクの総容量が満杯に達する見通し


■廃炉現場ルポ 「障壁」目の当たり 構内タンクの増設難

 東京電力福島第一原発事故から間もなく九年六カ月となるのを前に、廃炉作業が進む現場を取材した。使用済み核燃料の取り出しなどの作業が順調に進んでいると実感した一方、増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水、一部施設の高い放射線量が廃炉の大きな「障壁」となっている現実を目の当たりにした。

 構内の南部にある一角では、処理水の保管タンクを新たに設置する作業音が鳴り響いていた。溶接型と呼ばれる巨大なタンクは高さ、直径ともに十二メートルと小さいビルに匹敵する。現在も一週間に一基のペースで満杯になるとの説明を聞き、処理水の発生量の多さを改めて実感した。構内のタンクは千基を超え、敷地内への増設が難しくなり、年内の完成を目指すタンク群が「最後」になるという。

 溶融核燃料(デブリ)などの一時保管施設建設には、約八万一千平方メートルと現在タンクがある面積の四分の一に当たる広大な敷地が必要との試算もある。国の関係者が「既存のタンクを撤去しなければ場所の確保は難しい」と話すように、タンクの問題解決が今後の廃炉に欠かせない状況となっている。

 高台からは、オペレーティングフロアのがれき撤去が進む1号機、来年にもデブリの取り出しが始まる2号機、使用済み核燃料の搬出が続く3号機などの作業が見えた。建屋から百メートル離れても、毎時一一〇マイクロシーベルトと高い放射線量が計測されている。正面に見えた1号機の内部は高濃度の放射性物質に汚染され、放射線量も高いため、内部調査の計画が予定より遅れるなど作業に支障が出ている。

 東電の担当者は「知見を重ねながら安全を重視して作業を進めている」と繰り返し強調する。高線量下の未知の作業などが続く中、計画通り廃炉作業が進むためには、想定外の事態が起きたとしても迅速かつ的確に対応できるかが問われている。(郡山本社報道部・後藤裕章)


■使用済み核燃料 第一原発 取り出し、準備進む

 1号機 2027年度開始予定

 2号機 2024年度開始予定

 3号機 来年3月完了目標

 東京電力福島第一原発で、廃炉作業の主要工程の一つと位置付けられる使用済み核燃料プールからの核燃料取り出しと、その準備作業が進められている。炉心溶融を起こした1~3号機は原子炉建屋内の放射線量が比較的高いため、遠隔作業での核燃料取り出しに向け、準備が進む。

 使用済み核燃料は二〇一九(平成三十一)年四月、3号機で取り出しが始まった。東電は来年三月までに核燃料五百六十六体全ての取り出しを目指し、一日までに三百二十九体を取り出した。残る核燃料には上部のハンドル部分が変形した核燃料が十六体確認されており、今後の対応が課題となっている。

 2号機で六月、初めて使用済み核燃料プール内の調査が行われた。水中ロボットによる撮影で六百十五体の核燃料に異常がないことが確認された。今後、原子炉建屋南側に構台を設け、燃料取り扱い設備を新設し、二〇二四(令和六)年度の取り出し開始を予定している。

 1号機は水素爆発で壊れた原子炉建屋上部のがれき撤去作業が行われている。六月にはがれきの落下により核燃料の損傷を防ぐため、プールの水面に特殊なカバーを設けた。プール内の核燃料三百九十二体は二〇二七年度の取り出し開始を目指している。原子炉建屋内のプール燃料は熔融核燃料(デブリ)取り出しを含む廃炉作業のリスクとなるため、搬出して構内の共用プールに移す必要がある。


■第二原発 県外搬出 検討急務

 東京電力は五月、福島第二原発の廃炉の工程表となる廃止措置計画を原子力規制委員会に認可申請した。原子力規制委の認可と、県と楢葉、富岡両町に事前了解を受けた後、廃炉作業に着手する。

 東電は四十四年間としている全工程を四段階に区分したうち、第一段階に当たる十年間の解体準備期間の工事内容を計画している。除染や汚染状況の調査、使用済み核燃料プールからの核燃料取り出しなどを記載した。

 廃炉に伴う使用済み核燃料の県外搬出については、明記されなかった。七月に開かれた県廃炉安全監視協議会で、専門委員から使用済み核燃料や廃棄物の搬出計画の早急な検討の必要性が指摘された。1~4号機の使用済み核燃料プールには使用済み核燃料九千五百三十二体、新燃料五百四十四体が保管されている。

 東電は二〇一九(令和元)年九月に電気事業法に基づき第二原発を「廃止」とする発電事業変更届出書を経済産業相に提出した。


(本紙2020年9月3日付に掲載)