【福島医大の挑戦】(2)「妊産婦調査」 安全の根拠を集積 ストレスの影響注視

2021/03/22 11:43

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 「『科学的には安全』と言うだけでは『安心』につながらない」

 福島医大放射線医学県民健康管理センター妊産婦調査室長の藤森敬也(56)が二〇一一(平成二十三)年三月十一日の東京電力福島第一原発事故後、伝え続けているメッセージだ。妊産婦の不安を軽減させるため、放射線の影響に関する客観的データを積極的に示す重要性を訴えてきた。

 原発事故で放射性物質が放出された。県内で子を産み、育てても大丈夫か-。妊産婦の最大の悩みだった。不安からくる「産み控え」が広がる懸念もあった。安全を裏付ける客観的データの集積が欠かせなかった。

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 県民健康調査の一つ、妊産婦調査は二〇一一年の十二月に始まった。県内の市町村から母子健康手帳を交付されたか、県外で交付後、県内で妊産婦健診を受け出産した人が対象だ。妊娠二十二週から三十七週未満で出産する早産や体重二五〇〇グラム未満で生まれた低出生体重児、先天奇形・先天異常などを含めた出産の状況をはじめ、出産や育児に関する心配事などを調べている。

 調査の原形は一九九五年一月の阪神大震災にあった。兵庫県産科婦人科学会と兵庫県医師会が、地震によるストレスが妊産婦や胎児に与えた影響を大規模に調べていた。

 藤森はその論文を読んでいた。東日本大震災発生の翌月には主任教授を務める産科婦人科学講座から医局員二人を兵庫県に派遣し、調査の経緯や方法などを学んだ。未曽有の大災害から妊産婦を守りたいという思いは兵庫県と福島医大の医師の双方で共通していた。さっそく妊産婦調査の手法の素案作りに取り掛かった。

 原発事故発生後の調査で、本県で早産や低出生体重児、先天奇形・先天異常が発生する割合は、全国調査などの結果とほとんど変わらないという結果が出ている。いくら「県内で出産しても大丈夫なんだ」と医師側から言っても不安は消えない。客観的なデータを積み重ね、それを見てもらってこそ初めて安心につながる。調査の意義はそこにあった。

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 調査では電話相談も実施している。二〇一一年度には放射線やその影響に関する心配が29・2%と最も多かったが、その後は年々、割合は減少し、二〇一八年度には3・4%となった。一方で母親自身の心や身体の健康など、原発事故にかかわらず妊産婦が抱えやすい相談内容が増えている。

 県は「これまでの調査で放射性物質による顕著な影響は見られない」と判断し、出産などの状況を調べる調査を今年度で終了する。ただ、妊娠、出産から四年後などの状況変化を把握する「フォローアップ(追跡)調査」は継続するかどうか検討中で、結論は出ていない。

 県内では長期的な少子化傾向に歯止めがかかっていない状況だ。「震災、原発事故を経てきた本県だからこそ、産科医療の体制をより充実させ、安心して出産できる県づくりに一層力を入れていくべきだ」。藤森は訴えている。(文中敬称略)