【福島医大の挑戦】(4)「県民健康調査総括」 県外へ浸透道半ば 教育との連携を模索

2021/03/24 11:47

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シンポジウムで県民健康調査の意義を説明する神谷氏。調査結果を還元し、県民の健康増進に貢献する決意を強調した=2月
シンポジウムで県民健康調査の意義を説明する神谷氏。調査結果を還元し、県民の健康増進に貢献する決意を強調した=2月

 福島医大放射線医学県民健康管理センターが二月に福島市で開いた国際シンポジウム。「放射線災害は健康や社会、環境に非常に強い衝撃を与える。県民の健康影響を考える場合、放射線被ばくだけでなく、さまざまな要素を踏まえる必要がある」。冒頭で登壇したセンター長の神谷研二(70)は、県民健康調査に取り組む姿勢をこう説明した。その上で「今後とも県民の健康の維持増進に重要な役割を果たしていく」と強調した。

 神谷は広島大卒業後、一貫して放射線医科学を研究してきた。二〇一一(平成二十三)年七月に福島医大副学長、二〇一六年にセンター長に就いたこの分野の第一人者だ。県民健康調査には約四十六万人分の行動記録を解析した基本調査や、原発事故当時十八歳以下の子ども約三十八万人を対象とした甲状腺検査などが盛り込まれている。各調査の結果の蓄積を踏まえ、「放射線被ばくが直接の原因となった健康影響は確認できていない」と明言する。

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 センターはこれらの結果を、シンポジウムなどさまざまな機会を通して発信してきた。「被ばくによる遺伝的影響がある」と思う人の割合が減るなど、放射線に関する県民の認識の広がりや不安解消は「事故直後からはかなり改善した」と手応えを感じる一方、「県外、国外への浸透はまだまだ道半ば」と受け止めている。

 県内の新規高卒者の約半数は進学や就職で県外に出る。新天地で根拠なき偏見や差別に遭う懸念は今も消えていない。民間シンクタンクの三菱総合研究所が東京都民を対象に二〇一九年六月に行った復興や風評に関する調査では、回答者の四割が「次世代以降の県民に健康影響が起こる可能性が高い」と答え、根深い誤解を示唆する結果となった。

 神谷によると、学術界でさえ、福島の調査に関する情報は十分に伝わっていないという。「調査が導き出した科学的事実こそ県民の不安を低減し、風評被害から自分と所属する社会を守ることにつながる」とリスクコミュニケーションの重要性を強調する。

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 県民健康調査の現在地について、神谷は「調査で得た情報を伝え、健康支援に役立ててもらう段階に入った」と表現する。

 センターは調査の進展に合わせて人員を増やし、広報やリスクコミュニケーションの機能を整えてきた。少人数での対話による「点」の取り組みに加え、幅広い層に訴える「面」的な発信が重要だと位置づける。広報戦略を策定し、発信力のある人材の育成や学校教育、報道機関との連携の強化などを模索する。

 「時間の経過に伴い調査に求められるものは変化する。県民と直接接する機会を増やし県民のニーズを的確に捉えていきたい」と今後を見据えつつ、「調査と支援を両立して健康を見守る、世界に類のない試みを成功させる」と改めて決意を示した。(文中敬称略)