【福島医大の挑戦】(6)「TRセンター」 医療と産業橋渡し 研究成果、民間が活用

2021/03/26 12:58

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TRセンターが入る災害医学・医療産業棟。ガラス張りの外観が目を引く(福島医大提供)
TRセンターが入る災害医学・医療産業棟。ガラス張りの外観が目を引く(福島医大提供)

 福島市の福島医大の構内にある災害医学・医療産業棟。全面ガラス張りの近未来的な外観が目を引くこの建物に「医療-産業トランスレーショナルリサーチ(TR)センター」が入る。

 福島医大が震災の翌年の二〇一二(平成二十四)年の十一月にTRセンターを設けたのは、医薬品関連産業を本県の経済復興をけん引する分野まで育むための一手だった。「トランスレーショナルリサーチ」は「橋渡し研究」を意味する。その名の通り、医薬品開発に生かすための研究成果を企業に提供することで医療界と産業界をつなぐ使命を持つ。

 全国各地に同様の名称の施設があるが、それらが知的財産の管理に特化する場合が多いのに対し、福島医大ではセンター自体が研究を担うのが最大の特徴だ。

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 抗がん剤の効能を調べるためなどに役立てる、がん組織からつくった長期培養可能な細胞、ゲノム(全遺伝情報)の解析データなど。同大はさまざまな研究成果を企業に提供し、医薬品開発への活用を促している。現在、企業との契約数は三百件を超えた。

 二〇一九年二月には大手の試薬メーカーの子会社がTRセンターと同じ建物内に拠点を設けた。TRセンターとの一層の連携が狙いだ。より緊密な大学と企業のつながりによる新産業創出も期待される。

 一方、公立大学法人である福島医大は営利事業は展開できず、企業と直接的なやりとりがしにくいなどの弊害が生まれていた。このため大学と企業の間に入って契約の窓口となる第三者組織として、昨年二月に一般財団法人「福島医大トランスレーショナルリサーチ機構」が設立された。大学で生み出した成果を円滑に民間に活用してもらう仕組みが完成した。

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 新型コロナウイルスの感染対策にもTRセンターは動きだしている。

 世界で猛威を振るい始めていた昨年二月。TRセンター教授の高木基樹(47)は首都圏のいくつかの病院を訪ねていた。いずれも新型コロナの感染者を受け入れていた。「感染者の血液を提供していただけませんか」。未知のウイルスに立ち向かう第一歩だった。

 「新型コロナから人類を救う医薬品開発に福島医大の技術を生かせる」という確信があった。福島医大はタンパク質の解析に関する独自の技術を持っていた。タンパク質は新型コロナウイルスにも含まれており、この解析技術を使って感染者の血液中からウイルスの抗体を効率よく見つけられないか。治療や予防に有効な抗体医薬品の開発プロジェクトが始まった。

 多くのデータ蓄積が必要だ。プロジェクトでは百人を目標に、感染から回復した人に協力を求め、採血を進めており、目標達成は目前に迫る。投与後に抗体を作る「ワクチン」とは違った角度からの研究は、世界的な注目を集めている。

 新型コロナ対策で成果を挙げれば、これまで以上に福島医大の知名度は高まる。「福島医大が積み上げてきた研究成果を多くの企業に知ってもらい、関連産業が福島に集まる仕組みを築いていきたい」。高木は誓っている。(文中敬称略)