

その名の通り、2つのピークが寄り添うような双耳峰は、稜線(りょうせん)が美しい。天栄村のシンボルで、男岳(おだけ)、女岳(めだけ)と親しみを込めて呼ばれている。
江戸時代に出版された谷文晁の「日本名山図会」に載った古くから愛される名峰だ。県内の名だたる山頂から、その特徴的な姿を見ることができる。ダイダラ坊(ダイダラボッチ)という大男がまたごうとして山が割れた-という伝説が残る。
今回は背の高い男岳(1544メートル)を目指した。山麓にある二岐温泉から御鍋(おなべ)神社を過ぎると5分ほどで登山口がある。太陽を背にして南側斜面を登り始めると「八丁坂」という急坂となる。
アスナロやミズナラの樹林帯で、足元は苔(こけ)むした巨石が連続する。巨木の根が地表に不規則に露出し天然の階段のようではあるが、足を運び損ねるとたちまち体勢が崩れる。次第に息が上がった。天を仰ぐと、木々の合間から真っ青な空が見えた。
登るにつれてブナの大木が多くなり、柔らかな枯れ葉が積み重なった「ブナ平」という台地にたどり着いた。一緒に登った清水栄一てんえい山の会会長(60)によると、かつてブナ原生林の大規模伐採がこの一体であり、地元住民の反対運動で中止されたそうだ。
足取りがさらに重くなったところに「男岳坂」の看板があった。標高は1344メートル。残り200メートルだが、ここからが胸突き八丁だった。急斜面が連続し、手も使ってよじ登った。
山頂に出て息をのんだ。360度の展望が広がり、北に猪苗代湖と磐梯山、東に阿武隈山地、南に大白森山、那須連峰が見えた。天候に恵まれれば、遠くは飯豊連峰、吾妻・安達太良連峰なども眺められるという。
【なすびのお薦めポイント】中腹まで初級向け
初めて登りましたが急登と緩斜面の変化に富んでいました。中腹の「ブナ平」までは初級者向け、そこから山頂までは中・上級者向けの印象です。機会があれば女岳の「地獄坂」に挑戦してみたいですね。
文 斎藤 直幸 写真 谷口 健斗 (次回は12月12日掲載予定)