全国津々浦々に道路網が整備された今の時代に、隣り合う都道府県で唯一、車道がつながっていない県がある。本県と群馬だ。県境の尾瀬には、車道の代わりに木道が敷かれている。希少な自然を大気汚染や騒音から守る▼約六十五キロに及ぶ木道が新潟、栃木を含め四県にまたがる約三万七千ヘクタールの国立公園内を血管のように縫う。七十年前の一九五二(昭和二十七)年に敷設が始まった。十年程度で朽ちるため、貴重な植物が踏み荒らされないよう、人の力で架け替える作業が繰り返されてきた▼きょう二十八日に山開きされる。雪解けの高層湿原に咲くミズバショウがハイカーを楽しませる。季節の移ろいとともにリュウキンカ、ワタスゲ、ニッコウキスゲと主役が変わる。「花リレー」と呼ばれる。アンカーは秋のエゾリンドウだ▼長蔵小屋三代目の主人・故平野長靖さんが昭和四十年代、車道建設に異を唱え、中止に尽くした。志半ばで豪雪の尾瀬の峠道に倒れ、五十一年目の春を迎えた。湿原を望む丘にある墓石に思いが刻まれている。まもる 峠の緑の道を 鳥たちのすみかを みんなの尾瀬を-。意を継ぐリレーのバトンは不朽でありたい。