マイ・ホームタウン(9月27日)

2025/09/27 09:07

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 ちょうど60年前になる。米国の1965年は暴力に揺れた。北ベトナムへの空爆が開始され、泥沼の戦が本格化する。差別撤廃を唱える黒人解放運動家マルコムXは銃弾に倒れた▼その年、自分の高校でも緊張が高まった、と歌詞にある。ブルース・スプリングスティーンの「マイ・ホームタウン」だ。黒人と白人のけんかで、ショットガンが火を吹いた。家族との甘い思い出が詰まった古里がざわつく。大国を代表するロックスターは、現在に通じる分断の悲劇を作品に込めた▼国際協力機構(JICA)の「ホームタウン」事業が中止された。日本の自治体がアフリカから人材を受け入れ、地域のにぎわいにつなげる。相手の課題解決も考える。友好の礎になるはずだった。国内4都市が選ばれたが、「移民が増える」という誤情報が拡散した。医聖野口博士は現地と絆を強めた。その歴史を鑑みれば、わが県民の心境は複雑だ▼ブルースが歌う古里で産業は廃れ、35歳になった主人公は妻子と新天地を思い浮かべる。♪お前のホームタウン 俺のホームタウン―と繰り返す。虚空に爪を立てるかのように。みなの古里をどうしよう。掌[てのひら]の雑音が答えを遠ざける。<2025・9・27>