

JR磐越東線は現在、高齢者や学生らの足として重宝されている。運行本数が限られるなどの不便さがある一方、運行ダイヤの正確さと移動の快適さを備える鉄路は、車の免許を持たない人にとっては欠かせない存在だ。
だが、いわき-小野新町(小野町)駅間はJR東日本公表の利用者の少ない赤字区間に該当し、今後、路線の在り方の検討が進む。国鉄改革時代の廃線危機から40年、路線は再び岐路に立つ。「鉄道がなくなっては、生活できない」。交通弱者とされる人々は、切実な思いを訴える。
いわき市の小川郷駅に2両編成の列車が到着し、数人がホームに降り立つ。駅前で迎えの車に乗り、駅を後にする。同市小川町の自営業高萩登志子さん(56)は平日の朝夕、自宅と駅を往復し、弟の知総(ともみち)さん(52)を車で送迎するのが日課だ。
知総さんは軽度の知的障害があり、JR常磐線内郷駅近くの福祉作業所に通っている。運転免許を持たないため登志子さんに小川郷駅まで送ってもらい、電車を乗り継いで行く。小川地区から内郷地区への直通バスがないため、鉄路が重要な移動手段となる。
路線の在り方の議論が進もうとしている磐越東線の現状を登志子さんから聞いた知総さんは「もし電車がなくなったら、作業所まで通うのが大変になる」と困惑する。
登志子さんは東日本大震災を契機に鉄道の利便性を痛感した。内郷駅までの鉄路が一時不通となり、作業所まで片道約40分かけて車で往復した。心身ともに負担は少なくなかった。「家族のサポートも限界がある。鉄道が廃止されれば利用者だけでなく、周りの生活も変えてしまう」と不安を吐露する。「さまざまな立場の人の視点で議論を進めてほしい」
「電車は生活の一部。なくなるなんて想像できない」。磐城高2年の小川渚さん(17)が心配そうに話す。
自宅近くの磐越東線赤井駅(いわき市)で乗車し、隣駅のいわき駅から学校まで徒歩で通学している。登下校時には、いわき駅近くの学校に通う多くの高校生が磐越東線を利用する。別々の学校に通う友人と顔を合わせると、つい会話が弾む。「電車や駅でしか会わない友達と話す時間が楽しみの一つ」と笑みをこぼす。
鉄道の存廃を巡っては、バスへの転換も議論の俎上(そじょう)に上がる。だが、バスの運行は列車に比べて天気や交通量に左右されやすく、不便さが大きいと感じる。「通学にとって運行ダイヤが正確な鉄道は貴重な移動手段。存続してほしい」と願う。
駅の存在の大きさも感じている。赤井駅で地元住民が散歩の途中に休憩したり、雑談したりする光景をよく目にする。「地域の大切な憩いの場なんだと思う」
鉄路の存廃が地域の行く末を左右するとの懸念は根強い。いわき市小川町の小川郷駅周辺で地域活性化に取り組む団体は、路線存続に不可欠な利用促進に向けて知恵を絞る。