

国鉄時代に廃線の危機に見舞われ、地域住民が路線の存続に向けて積極的に活動した磐越東線。地方路線を巡る議論の熱が再び高まろうとしている今、同じように沿線地域を巻き込んだ鉄路の利活用促進は不可欠だ。
和歌山、奈良両県にまたがるJR和歌山線のうち和歌山県側では、鉄道を取り巻く環境が大きく変わるコロナ禍前から、沿線地域とJRが一体となった「ワカカツ~ぼくらの和歌山線活性化プロジェクト~」などの活動を展開してきた。どうすれば路線の在り方を自分事と捉え、利用に結び付けられるか-。学生から大人まで幅広い世代が試行錯誤してきた。
JR新大阪駅(大阪市)から特急列車で約1時間。和歌山駅で乗り換え、住宅街や、のどかな田畑などが広がる地域を走り抜ける。和歌山線は通勤、通学、買い物など沿線住民にとって大切な生活の足となっている。
磐越東線と同様、JRの「地方交通線」に分類されるが、1キロ当たりの1日平均乗客数は2千人以上で、収支公表の対象にはなっていない。だが、約50年前から半減するなど利用者数は減少傾向にある。ワカカツは地域の衰退に危機感を抱いたJR西日本和歌山支社が事務局となり、2017(平成29)年5月に始動した。近隣の学校、企業など約40の団体で構成する。
地元の高校からの提案を受け、2018、2019両年度には「しゃべり場トレイン」と題して列車内で若者が議論を深める事業を展開。「どうすれば和歌山線に人が集まるか」「親世代の高校時代と今の高校生の違いは何か」などをテーマに高校生や大学生、沿線住民らが意見を交わした。和歌山支社地域共生室の中島有紀さん(36)は「自分事として受け止めてもらいたいという思いを形にできた」と成果を語る。
沿線ではJRや和歌山県、地元5市町でつくる和歌山線活性化検討委員会も活動する。子ども向けの電車の乗り方教室、高齢者を対象にウオーキングを組み合わせて列車に乗ってもらう企画など、路線を盛り上げる取り組みを重ねる。
事務局を担う和歌山県紀の川市の畑清美企画部次長兼地域創生課長(58)は「路線は県内を東西に移動するための重要な交通手段。将来にわたって地域と共存できる仕組みをつくりたい」と話す。
地域を巻き込んで展開してきたワカカツだが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で近年は十分な取り組みができない状況が続いてきた。経済再生への動きが高まる中、和歌山支社地域共生室の山下篤課長代理(44)は「もう一度大きな活動に育てていきたい」と再始動を誓う。
和歌山支社管内ではJRきのくに線(紀勢線)で、和歌山県や沿線地域と連携しサイクルトレインを展開している。山下課長代理は「鉄道会社の考えだけで列車を走らせるのではなく、地域の皆さんと一緒に考え、鉄道そのものを楽しんでもらえるような取り組みを進めたい」と前を向く。JRと地域が手を携え、効果的な利活用策を生み出せるかが問われている。(第3部「磐越東線」は終わります)
※JR和歌山線 奈良、和歌山両県を東西に結ぶ王寺(奈良県王寺町)-和歌山(和歌山市)駅間の全36駅87・5キロの地方交通線。このうち、和歌山県側は隅田(和歌山県橋本市)-和歌山駅間の全22駅46・4キロ。