

2016(平成28)年6月18日、福島県会津若松市で開かれた只見線復興推進会議検討会。新潟・福島豪雨被害で不通となったJR只見線会津川口(金山町)―只見駅間について、JR東日本が「上下分離方式」による鉄路の復旧案を示した。JRが列車を運行するが、線路などの維持管理費は地元負担となる。会津地方17市町村の首長らが顔をそろえた会場では、前向きな受け止めと慎重な意見が入り交じった。
「『負担』ではなく、会津が観光で生きるための将来への『投資』と考えてほしい」。会合終了後、只見町長だった目黒吉久さん(71)は慎重な姿勢を見せる出席者に語りかけた。その後も会津地方の市町村を巡って理解を求めた。日程の詰まった当時の手帳を手に、「絶対に鉄路での再開しかない。その一心だった」と思い起こす。
豪雨被害前、只見線の赤字額は年間2億8千万円に上った。JRは当初、不採算路線であることや80億円超という巨額の復旧費を理由に鉄路再建に難色を示し、利便性に優れるとしてバスへの転換を推した。
県と17市町村は復旧費の基金を積み立てていた。目黒さんは「一定の負担をしてでも全線再開通したいという思いは強かった」と振り返る。地元の熱意を受け、JRが提示した打開策が上下分離方式だった。バス転換策を最優先としながらも、復旧費に加えて地元による維持管理費の負担、継続的な利活用策を条件に列車を運行するとした。
恒久的な維持管理費の負担は市町村を悩ませた。年間支出は2億1千万円に上る。一部からは「負担が大き過ぎる」との不安が漏れた。住民説明会でも慎重論が出た。
負担のないバス運行か、痛みを伴う鉄道での再開か―。決定付けたのは地域のシンボルを守るという熱意と、県の広域自治体としての覚悟だった。
県が鉄道施設の所有など維持管理の主体となり、管理費の多くを賄うことになった。「県が最大限努力すると決断したことで、上下分離方式に理解を得て、地元の総意として鉄道復旧へとかじを切ることができた」。内堀雅雄知事は感慨深そうに語る。
困難かと思われた鉄路による再開へと進むことができた背景には「地元自治体と住民、JR東日本、国を含めた粘り強い議論の積み重ねと信頼関係の構築、災害を理由に福島の宝である只見線をなくしてはならないという地域の思いがあった」と強調する。
2017年3月、只見線復興推進会議は上下分離方式を決定し、6月に県とJRが基本合意書を締結。全線再開通へ大きく動き出した。
ただ、この時点で地元が3分の2を負担する多額の復旧費が重くのしかかっていた。道を開いたのは、国会議員が成立を目指した改正鉄道軌道整備法だった。