鉄路と生きる

【鉄路と生きる(53)】第6部 阿武隈急行線 地震 波打つレール 都市部の生活を直撃

2023/08/19 10:19

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地震の影響で、線路の砕石が崩れ、上下に波打つレール=2022年3月17日、向瀬上駅(阿武隈急行提供)
地震の影響で、線路の砕石が崩れ、上下に波打つレール=2022年3月17日、向瀬上駅(阿武隈急行提供)

 第三セクター鉄道・阿武隈急行線は度重なる自然災害に見舞われた。東日本大震災、2019(令和元)年10月に襲来した台風19号、2021年2月の地震…。被災と復旧を繰り返した。中でも、2022年3月に発生した最大震度6強の福島県沖地震の被害は、通勤・通学などの利用者が多い福島市、伊達地方の生活を直撃した。


 2022年3月16日午後11時36分、激しい揺れが中・浜通りを襲った。福島市の自宅で就寝前だった阿武隈急行専務の新関勝造さん(62)は思わず身構えた。時計を見る。まだ阿武隈急行線が運行している時間帯だった。「この揺れは、まずいな」。乗客の安全や列車の走行に影響がないか不安がよぎった。

 自宅から状況を確認した。地震発生時、槻木駅(宮城県柴田町)発上り線と福島駅発下り線の2本が運行中だった。乗客がゼロだった上り線は兜駅(伊達市梁川町)で停車し、下り線は乗客6人を上保原駅で降ろしていた。「乗客が無事で良かった」。胸をなで下ろした。だが、深夜のため点検作業が進まず、鉄道設備の被害の有無は分からない。もどかしさが募った。

 17日早朝。伊達市梁川町の本社に駆け付けると、社員を各駅の点検に向かわせた。次々と届く報告は、想像以上に大きな爪痕だった。

 地面から浮き、上下に波打つ鉄のレール。崩れた線路ののり面。一部の線路橋にはひびも見つかった。いずれも揺れの激しさを物語っていた。福島市の福島学院前―向瀬上駅間を中心に福島県側での被害が深刻だった。新関さんは「全線復旧までに、どのくらいの時間がかかるのか見当がつかなかった」と当時の不安を思い返す。

 2日間運休した前年の地震発生時と比べ、被害が大きいのは明らかだった。社内で開いた災害対策本部会議は重い空気に包まれた。先行きの見えない状況を前に、幹部社員の表情には危機感がにじんだ。


 会社では問い合わせの電話が鳴り響いた。4月から、新たな職場や学校に通うため路線を利用する予定の人もいた。「まずは利用者の生活を支えなければ」。新関さんらは福島交通と連携した代替バスについて協議を重ね、4月4日から福島―梁川駅間での運行にこぎ着けた。

 だが、鉄路を本格的に復旧するには、線路の総点検や被災した設備の修復など難題が山積みだった。