【来月 改正法で義務化】 耐震診断 負担に困惑 震災で経営厳しく 県内旅館など「補助充実を」

大規模施設に耐震診断を義務付けた改正耐震改修促進法の11月施行を控え、対象となる可能性がある県内旅館・ホテルの関係者は、耐震診断や耐震改修に必要な費用捻出に苦悩する。東日本大震災の復旧工事への出費に加え、東京電力福島第一原発事故の風評で経営の先行きは見通せない。さらに資金を確保できるか...。県内では民間施設100棟程度が耐震診断の対象となる見通し。困惑が広がり、行政に補助制度の充実を求める声も上がる。
■借金が増える
「耐震化の必要性はよく分かるが...」。南相馬市のホテル経営者(55)は厳しい表情を浮かべた。ホテルの規模や建設時期を考えれば、耐震診断義務付けの対象となる可能性があるが、耐震診断やその後の耐震改修などの費用を確保できるかは不透明だ。
診断は数百万円、改修が必要になれば、さらに数億円程度かかることがある。ホテルは震災で壊れたエレベーターや配管設備などを数千万円かけて復旧させたばかりで、資金的な余裕はない。銀行から融資を受けており、借金を重ねられるかも分からない。
原発事故の影響で宿泊客は激減し、現在も震災前の7割程度だ。将来的な展望を描けず、不安が先に立つ。「こんな状況で大きな投資をしていいのか。改正法施行を機に廃業する旅館・ホテルが出てもおかしくない」
会津若松市の旅館の男性支配人(58)も「お客さまの安全確保のための法律なのでしっかり対応したい」としながらも、「実際に耐震改修が必要になった場合、その間、宿泊客を受け入れられない減収分はどうカバーすればいいのか」と悩みを打ち明ける。
耐震診断の期限が平成27年末に設定されていることに、県旅館ホテル生活衛生同業組合の佐藤精寿事務局長(57)は「あまりに期間が短すぎる。診断は間に合うのか」と首をひねる。さらに、復興需要で建設業の人手が不足している中、耐震改修を発注する業者がスムーズに見つからない懸念も指摘した。
■県に窮状訴え
県旅館ホテル生活衛生同業組合、県商工会議所連合会は9月、県に相次ぎ要望活動をした。窮状を説明し、耐震診断や耐震改修の費用に関する補助制度導入を訴えた。
国は費用のうち、耐震診断で3分の1、耐震改修で11・5%の補助を決めており、両団体は県の上乗せを求めている。県が上乗せした場合は、国が補助をさらに増額する仕組みもある。
震災発生後、多くの被災者を2次避難所として受け入れた福島市の旅館の経営者(63)は「旅館・ホテルは大規模災害時に被災者の避難所として重要な拠点となることが今回、証明された」と指摘した上で「できるだけ自己負担を抑えられるよう、行政の支援をお願いしたい」と強調した。
■結論出せず
県建築指導課では、改正法施行に向けた準備が進む。
県は耐震診断の補助制度の導入について検討しているが、結論は出ていない。改正法が今年3月に閣議決定されてから期間が短い上、国の動きが鈍く、現在も施設の対象基準が正式に決まっていないという。「結論が出るのは来年になるだろう。改修への補助についても、耐震診断の状況をみなければ対象数の見通しが立たず、議論できない」。担当者の1人は現状を説明する。
県は今後、改正法の説明会や相談窓口の開設、耐震診断できる技術者情報の提供などを通して対象施設の所有者を支援する方針だ。
【背景】
改正耐震改修促進法の施行後の流れは【上図】の通り。耐震基準が強化された昭和56年6月より前に建てられた大型施設が対象で、旅館・ホテル、病院、店舗など不特定多数が訪れる建物などが該当する。耐震診断を平成27年末までに義務付け、その結果は県などに報告する必要がある。診断拒否や結果を虚偽報告した所有者には罰金を科す。報告を受けた県などは結果を公表する。国は対象建物の基準を政令案に盛り込んでおり、今月上旬に正式決定する。