【相双地域の医療再生】双葉郡救急拠点を"喪失" 他の機関代行困難 相双地域の医療再生
東京電力福島第一原発事故による避難区域の見直しが3月末に迫る中、双葉郡の中核病院の再生も大きな課題となっている。国は帰還困難区域以外の避難指示解除準備、居住制限の両区域の除染を平成25年度内に終了させる。救命の要となる病院を喪失したままでは、住民帰還の障害になる恐れがある。一方、県は相双地域を中心に医師確保対策を進めているが、国や自治体からは即効性のある施策を求める声が上がっている。
■八方ふさがり
原発事故に伴う避難区域の見直しで、統合を予定していた双葉郡の県立大野(大熊町)と双葉厚生(双葉町)の両病院が「帰還困難区域」に入り、救急医療などの拠点が失われる可能性が大きくなっている。地域内の他の医療機関が機能を代行することは難しいとみられる。
「放射線量の低い場所に大きな医療機関を造ることは夢のような話。病院の土台ごと移転したいが、かなわぬ願いだ」。県病院局の職員は八方ふさがりの状況に頭を抱える。
県立大野病院と、JA福島厚生連が運営する双葉厚生病院は昨年4月、統合を控えていた。新病院は双葉郡内の3割以上に当たる370床の病床、常勤医師25人を抱える中核病院として2次救急医療の拠点になるはずだった。
しかし、福島第一原発から4.2キロの県立大野、3.3キロの双葉厚生とも放射線量が極めて高く、県関係者は「両院とも帰還困難区域に入る」とみている。両病院と同程度の機能を備えた医療機関は周辺には見当たらない。地域の将来や住民帰還の動きが見通せない現状では、新病院建設は「おとぎ話」だ。
県は浜通り地方の医療再生に向けた計画を今月中にまとめ、国に提出する。「相馬」「双葉」「いわき」の3地域に分け、相馬は「県北との連携強化」、いわきは「患者受け入れ機能の強化」などの方向性が明確になってきた。一方、双葉は「避難区域解除の見通しに合わせて柔軟に対応」とするにとどまる。
県保健福祉部の職員は「医療サービスが十分、提供できない地域に住民を戻すことはできない。どうすればいいのか...」と天を仰ぐ。
■財政支援
県は平成23年度の9月補正予算で約5億円を確保し、医療従事者雇用の人件費などの補助制度を事業化した。しかし、現段階で申請件数は10件程度にとどまっている。県地域医療課の担当者は「潜在的なニーズは多いはず。年度末に向けて申請が増えるだろう」と今後の需要増に望みを託す。
昨年12月には福島医大に「県地域医療支援センター」を設置。職員2人を常駐させ、医大からの医師派遣や求職者への就業先あっせんなどの取り組みを進めている。ただ、開所から1カ月余りで、具体的な成果が出る段階には至っていない。
厚生労働省の担当者は「即効性のある医師確保対策が必要なのに、県の対策が十分に機能しているとは思えない」と指摘する。南相馬市の担当者は「医師を確保するには、病院側の経営状況を改善する必要がある。行政による民間病院への効果的な財政支援が望まれる」と訴える。