いつか双葉で農業を 避難先で組合法人を設立 秋にも活動本格化

■埼玉県久喜市で営農 鵜沼一夫さん(65)久江さん(60)
東京電力福島第一原発事故後、双葉町から埼玉県久喜市に避難し、農業をしている鵜沼一夫さん(65)久江さん(60)夫婦は耕作放棄地などを活用して今秋にもパイプハウス3棟を建設し、農事組合法人の活動を本格化させる。「いつか古里に戻って農業をしたい」との思いは変わらない。埼玉県の農業後継者にいつでも事業を譲れるよう、農事組合法人をつくった。
県や双葉郡8町村によると、郡内の住民が原発事故後に農事組合法人を設立した情報はないという。
鵜沼さん夫婦は双葉町で水田約7ヘクタールを耕作し、肉用牛約50頭を育てていた。一夫さんは震災から約1カ月後の平成23年4月18日に埼玉県農林公社に臨時職員として勤務。野菜作りを約10カ月間学んだ。
埼玉県への恩返しの意味もあって後継者に経営を譲ることができるように農事組合法人を発足させることにした。県農林公社で知り合った仲間2人と24年4月に設立。「苦難の中でも夢を忘れない」との思いを込めて「双葉夢ファーム」と名付けた。
埼玉県は双葉町と比べて夏の湿度が高く、冬も気温が下がらない。病気や害虫が発生しやすく、農業の難しさをあらためて実感させられた。パイプハウスは病害虫の被害を最小限に抑え、法人の経営を少しでも安定させるため導入する。一夫さんは「経営が軌道に乗り、活動しやすい状態で後継者に法人を譲りたい」と語った。
生産した農産物は埼玉県内の直売所などで販売する。新鮮な野菜への需要は本県より高いという。2人は「すぐに売れてしまい、もっと販売量を増やしてほしいとお客さまから言われる」と話す。
「農業を志す若者は埼玉県にもいる。双葉町民である自分たちが埼玉県で小さな足跡を残すことができればいい」と一夫さん。古里から約200キロ離れた空の下で夢を抱き続ける。