自慢の田んぼ「命」吹き込む 夫婦二人三脚希望の田植え

■浪江の農業 松本清人さん(75)
浪江町の営農再開に向けて16日、東京電力福島第一原発事故後、初の田植えに臨んだ同町酒田の松本清人さん(75)は避難先の川俣町から通い、この日のために準備を進めてきた。久しぶりによみがえった水田を見詰め、「浪江の農業を若い世代に継承していく」と決意を込めた。
田植機に乗り込んだ松本さん。妻ハツ子さん(73)から青々とした苗を受け取ると、自然と顔がほころんだ。「素直にうれしい。やって良かった」。田植えを無事に終え、充実感をにじませた。
原発事故後、川俣町の借り上げ住宅に避難している。50年以上取り組んできた農業から3年間、離れた。「年も年だし、もう農業はやめるつもりだった」と本音を明かす。だが、町から実証栽培の依頼が来ると、心の奥にくすぶっていた米作りへの思いが燃え上がった。「浪江の農業をつないでいく責任がある」。決意はすぐに固まった。
4月から作付けの準備に入った。川俣町から車で片道約1時間。週2回通い、肥料をまいたり水を引くなどの準備に追われた。「久しぶりの農作業は大変だったけれど、それよりも楽しかったなあ」と振り返る。作業を支えてきたハツ子さんも「作付けが始まってから(夫は)元気になった。田んぼが生きがいのような人だったから」と笑った。
収穫は10月を予定する。「一時帰宅した町民が、成長していく稲を見て元気になってほしい」。力強く根付き始めた苗に希望を託した。