(79)歯止め 支援の現場から 地元スタッフに負担 被災者の笑顔を励みに

70代の男性の部屋は、飲みかけの焼酎の瓶が何本も転がっていた。南相馬市小高区から原町区の仮設住宅に避難している。相馬広域こころのケアセンター南相馬事務所のスタッフで保健師の伏見香代さん(43)は今年4月、男性宅を訪問した。
男性は1人暮らしで孤立を深め、アルコール依存症になった。昔の生活や地域の行事などに話を向けると、冗舌に応じてくれた。しかし、「何か悩みはないですか」と問い掛けると、「俺は大丈夫だ」と、自分の弱みは見せようとしなかった。
孤独だから酒を飲み、周囲から疎遠になる。すると、ますます酒に手が伸びる。アルコール依存症や強い孤独感は自殺のリスクを高める。男性は1度だけ、本音を漏らした。「やっぱり1人は寂しいな」
「また来るからね」。別れ際に言葉を掛けた。「おう、毎日でも来い」
本当に毎日でも訪問したいが、現在のスタッフ数では無理だ。仮設住宅を定期的に訪問している市社会福祉協議会の生活支援相談員に注意深く見守ってくれるよう頼んで仮設住宅を後にした。
家や古里を奪われ、孤独の中で絶望しているお年寄りに自分が何をしてあげられるのか。生きる理由をどう示せばいいのか。どんな言葉で元気づけられるのか-。自分に問い掛け続ける毎日だ。
震災前、浪江町で保健師として働いていた。「できる限り避難住民の役に立ちたい」。思いは募るが、仮設住宅で1人暮らしの高齢者らは孤立を深めていく。自分が同じ境遇だったら、絶望してしまうかもしれないと感じてしまう。無力感に埋め尽くされる。
自分も被災者だから、気持ちが分かる。感情移入し過ぎてしまうこともある。話を聞いているうちに、一緒に泣いてしまう時も多い。強い疲労やストレスを感じる。
震災発生から3年が経過した。当初は全国から集まっていた医師や臨床心理士らの支援者、ボランティアの人数は減少傾向にある。一方で被災者の心のケアには長期的な関わりが必要だ。地元スタッフの負担は、日を追うごとに増している。
「時には今のような生活から逃れたいと思うことさえある」。伏見さんは真情を吐露する。地元スタッフの多くは被災者でもある。活動が長期化する中、支援する側の心の疲弊が確実に進んでいる。
センターの事務所に手作りのカバーに包まれたティッシュボックスが置かれている。浪江町から南相馬市に避難している、手芸が趣味の女性が、支援のお礼にとくれた。「励まし合って生きていかなくちゃ」。避難住民の笑顔を支えに、仮設住宅に向かう。