(41)命の重さ 慰謝料 法律家の闘い 「自己責任」問うのか 体調不良や精神的弱さ

被災者の求めに応じて奮闘する弁護士の白鳥さん

 東京電力福島第一原発から北側に25キロほど離れた南相馬市原町区にある新開法律事務所の南相馬事務所。原発事故に伴い、一時緊急時避難準備区域となった。東日本大震災から2年6カ月が経過した現在も、原発事故による慰謝料請求などの相談に訪れる住民が後を絶たない。
 同事務所を拠点に活動する弁護士の白鳥剛臣(たかおみ)さん(33)は「避難生活で被災者が命を落とすなど原発事故の被害は今なお続いている。被害がある限り、救済に向けた声を上げ続けなければならない」と被災者に寄り添う。
 国内の原発は国策として推進された。「安全神話」が語られ、今回のような大事故に備えていた住民は、いないに等しい。原発事故に伴う避難で体調を崩すなどして亡くなった「原発事故関連死」の遺族は、やり場のない悲しみや怒り、喪失感を抱える。損害賠償請求訴訟や政府の原子力損害賠償紛争解決センターの裁判外紛争解決手続き(ADR)に踏み切る。法律家にとっても、原発事故による未曽有の被害は前例がない。因果関係の立証など手探りの作業が続く。
 避難で体調を崩して亡くなったとして、大熊町の双葉病院と隣接する系列の介護老人保健施設の患者・入所者の遺族の一部は6月、東京電力に1人当たり約3300万円の損害賠償を求める訴えを起こした。白鳥さんも原告側代理人に名を連ねる。「患者らが突然の避難で被害を受けたことは明らか。東電に賠償責任があることを法廷で証明できれば、これから訴えを起こす人たちの先例となり、救済につながる」
 だが、東電側は死亡と原発事故の因果関係が不明確だとして、請求棄却を求めている。
 原発事故と死亡の因果関係を見極める上で重要になるのは、既往症や避難の状況、経過を踏まえて医師が作成する死亡診断書になる。しかし、事故から時間が経過すればするほど、避難と死との因果関係は表面上、不明確にならざるを得ないという。
 さらに、原発事故関連死訴訟では東電側が死亡者の自己責任を強調する動きがある。原発事故に伴う避難中に命を落とした患者らについて、生活習慣による体の不調や精神面の弱さを指摘し、原発事故と死の因果関係を薄めさせるという。
 長引く仮設住宅暮らし、地域コミュニティーの崩壊、消えることのない風評被害...。原発事故前と全く変わってしまった環境の中で、苦しんだ被災者に自己責任を問うのか。「道理に合わない」。白鳥さんは東電の姿勢を強く批判する。
 白鳥さんは、国、原子力損害賠償紛争審査会などが中心となって東電の責任を定義した上で、原発事故と死亡との因果関係を広く認める指針を示すべき、と指摘する。
 「全国的には原発事故の風化が進んでおり、このままでは被災者や遺族の声が国や東電にますます届きにくくなる。被害の救済が不可能になる恐れさえある」。白鳥さんは原発事故による避難住民がいる限り、訴えに耳を傾け続ける覚悟だ。