第7部 ADR・訴訟 地域事情(45) 裁判が解決の近道 判決まで2年の見方も

地域再生へ公的賃貸住宅などの整備が進む田村市都路町。賠償問題の早期解決を願う住民は多い

 東京電力福島第一原発事故に伴う精神的損害賠償をめぐっては裁判外紛争解決手続き(ADR)を選択せず、訴訟に持ち込む例もある。
 田村市都路町の旧緊急時避難準備区域の住民586人は昨年2月、東電と国を相手に精神的損害賠償の支払いを求める訴訟を地裁郡山支部に起こした。原子力損害賠償紛争審査会の指針に基づく精神的損害賠償は平成23年9月の避難区域解除から1年後に打ち切られた。以降に生じた苦痛に対する慰謝料として1人1100万円を求めている。
 ADRで原子力損害賠償紛争解決センターが和解案を提示したとしても、強制力はない。東電が応じるとは限らず、長期化どころか、解決に至らない可能性もある。裁判は手続きなどが煩雑だが、最終的に早期解決につながると期待しての判断だった。

 慰謝料請求に向けた活動は緊急時避難準備区域の住民への賠償が終了した直後に始まった。同じ町内でも避難指示解除準備区域に再編された住民には1人月10万円が払われ続けた。賠償の差が住民の心に微妙な距離を生み始めていた。
 地域の結び付きを保つには格差の解消が必要として、市内の船引運動場仮設住宅で自治会長を務めた宗像勝男さん(71)らが各世帯を回り、意向を聞いた。弁護士との協議も重ね、最終的に訴訟に持ち込むことに住民から大きな異論は出なかったという。

 第1回口頭弁論は今月15日に行われる。東電は「裁判所の指揮に基づき、請求内容や主張を詳しく伺った上で真摯(しんし)に対応する」としている。それでも弁護団代表の吉野高弁護士(58)=東京=は「今回の訴訟は判決が出るまで最低でも2年程度はかかるだろう」と予想する。
 宗像さんは先日、第1回口頭弁論のやりとりを知るため、同じような訴えを扱っている裁判を傍聴した。原告側代表が意見陳述した後、双方の弁護士が内容を確認した。表面上、淡々と進み、わずか15分で終了した。次回の口頭弁論は2カ月半先という。
 「ある程度の時間は要すると思っていたが、こんなに手続きが進まないとは考えもしなかった」。宗像さんは実感した。どの道を選んでも早期解決はかなわないのか。ADRと訴訟のはざまで住民はもがく。