若者に魅力どう伝える 漁業 北郷輝夫さん 65 いわき

■「ようやく前に進める」
東京電力福島第一原発事故の影響で、いわき沖での操業自粛が続くいわき市漁協と小名浜機船底曳網漁協は18日、底引き網漁で初めて試験操業に乗り出す。本格操業再開に向けた第一歩。
「ようやく前に進める。手放しで喜べる状況ではないが、気持ちが高ぶるね」
市漁協久之浜支所所属の三誠丸(17トン)の船主兼船長の北郷輝夫さんは津波の傷痕が今も残る久之浜漁港で出漁準備を進め、少しだけ表情を緩めた。
【平成25年10月18日付・再起】
試験操業が始まって2年5カ月ほどがたった。依然として本格的に操業が再開できる見通しは立たない。
東日本大震災前、いわき沖の漁の主力はヒラメやナメタガレイだった。今は取れても試験操業の対象魚種ではないため、海に戻すしかない。試験操業の対象魚種は放射性物質の検査をしている。安全には絶対の自信がある。ただ、本格操業ができるようになっても風評被害は残るかもしれない。消費者が安心して食べてくれるかどうか...。
■「地元の陸(おか)に水揚げしたい」
試験操業が開始されて以降、地道に船を出し続けている。暗闇に包まれている午前1時か2時に港を出て、網を1回上げて午前8時ごろには陸に戻る。震災前は船の上でひと晩を過ごし、次の日の朝まで漁を続けたものだ。1回の漁で10回は網を上げていた。
試験操業で久之浜漁港に水揚げした魚介類は、放射性物質検査ができる県漁連地方卸売市場小名浜魚市場まで50分ほどかけて運ぶ。地震と津波で被害を受けた市漁協久之浜地方卸売市場の解体工事は今年1月にようやく始まった。地元で水揚げした魚介類を、地元で仲買人に引き渡せるようになるのはいつになるのか。
■「漁業の未来のために」
後継者が育っていないのも不安材料の一つだ。若者がいなければ漁業は衰退する。確かに、休みはない、時間が不規則、体力的に厳しい...などきつい仕事だ。でも、何物にも替え難い充実感を得られるのが漁業だと思う。若者が魅力を感じる漁業の在り方を考えなければならない。
26歳から30年以上、いわき沖で漁を続けてきた。懸命に漁を続けてきたが、本格操業が再開しても以前のように気力と体力を保ちながら漁ができるかどうかは自分でも分からない。それでも今はいわきの未来の漁業のために前に進むしかないと思っている。
