全種解除 いつなのか 量少なく検査できず 漁業再生(上)

試験操業で水揚げされた本県沖魚介類の放射性物質検査をする漁協の職員

 「全ての魚介類の出荷制限が解除される日はいつになるのか」。いわき市の漁師の男性は水揚げした魚を見ながらつぶやいた。本県沖での1日も早い本格操業開始を願い試験操業を続けているが、胸の内のもやもやとした疑念を消せずにいる。
 東京電力福島第一原発事故後、政府は放射性物質検査でセシウム濃度が食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えた本県沖の魚介類延べ44種の出荷を制限した。解除となる場合、県が制限対象種の検査結果を水産庁に送り、政府の原子力災害対策本部が県に解除を指示する。
 これまでにヒラメやババガレイなど32種の出荷制限が解除されたが、残る12種の解除時期は不透明だ。漁獲量が少なく検体の確保が難しい上、政府の解除要件があいまいだからだと指摘する声が出ている。


 平成24年以降のセシウム濃度検査で、基準値を1度超えただけだが出荷制限が続いている魚にサクラマスがある。24年4月2日に1キロ当たり127ベクレルを記録し、制限対象となった。同4月11日以降に検査した17回は全て基準値以下で、このうち16回は検出下限値未満だが、現在も制限されている。
 一方、12種のうち、サクラマスとビノスガイは28年に1検体も検査できなかった。カサゴやヌマガレイ、イカナゴ、ウミタナゴなども10検体未満にとどまる。漁師は検査をしたくともできない現実に苦しむ。


 出荷制限解除の基準となる政府のガイドラインによると、沿岸性の種は過去に基準値を超えた場所を含む複数の地点で獲り、検査するよう県に求めている。解除に必要な検査地点数や検体数に関する明確な記載はないが、32種については「一定の漁獲量」があったとして政府は解除要件に該当したと判断した。一方、残る12種は見通しが立っていない。ガイドラインには「検査結果が安定して基準値を下回っていること」との条件も記されているが、「安定」の根拠には触れていない。
 管理が難しい野生のキノコや山菜は野菜や果実などと比べて多くの検体が必要となる。水産物は移動する観点から、要件がより厳しくなっている。
 水産庁は検査地点数や検体数があいまいと指摘される点について「広域に生息する魚介類の特性を考慮すると、解除基準を明確に定めるのは難しい」(研究指導課)と説明し、打開策を探る。
 いつまで待てばいいのか。いわき市の漁師の男性は「消費者の安心のために厳しい要件があるのは分かる。ただ、水揚げが少ない実態を考慮した現実的な対応を考えてほしい」と訴える。


【出荷制限が続く12種の魚介類】
イカナゴ(稚魚除く)
ウスメバル
ウミタナゴ
キツネメバル
クロダイ
サクラマス
シロメバル
スズキ
ヌマガレイ
ムラソイ
ビノスガイ
カサゴ