通所・訪問型運営遠く 見通せない事業所確保 福祉再開(下)

デイサービスを提供していた原発事故前の写真を見つめ、無念さをにじませる三瓶

 「今頃はデイサービスを受けた人が帰る時間帯でにぎやかだった」。夕方、飯舘村の特別養護老人ホーム「いいたてホーム」で施設長の三瓶政美(68)が遠い昔を思い出すようにつぶやいた。利用者が笑みを浮かべている掲示写真を見ると無念さが込み上げた。
 村の避難指示は31日に一部を除き解除される。ホームは唯一の福祉施設で、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後は社会福祉法人いいたて福祉会が入所者の介護事業に絞って運営してきた。住民基本台帳によると村の高齢者の割合は平成28年4月現在で31・5%となり、震災前の22年4月から2・6ポイント上昇した。帰還が始まれば、必要な介護を気軽に受けられるデイサービスの需要が高まると予想されている。しかし、福祉会は人手不足のためデイサービスを休止している。三瓶は「将来的には再開したいが、一法人の努力だけでは手が回らない」と嘆く。

 デイサービスには自宅から施設に通い入浴や食事の世話などを受ける通所型と、職員がお年寄りらの家を訪れて介護をする訪問型がある。村は原発事故後、サービス再開には介護職員の増員が欠かせないとして人的支援を国に要望してきた。政府は人材確保のため養成学校の県内設置を目指すが、開校まで早くて3年かかるとされ、人手が欲しい施設の喫緊の課題には応えられない。
 村は打開策として村内の訪問介護事業に参入する村外の事業所を探し始めた。訪問先一軒当たり2000円を事業所に支払う。村内までの交通費は介護保険料の対象外となっており、事業者の負担を減らすためだ。近隣市町村の約400社に意向を聞き、そのうちの数社と交渉している。
 ただ、仮に40キロ近く離れている福島市中心部から片道50分ほどかけて村に来ても、利用者が1人では事業所の採算が合わない。阿武隈山系の中央部に位置し、冬場に積雪のある村の地理的条件を踏まえると、どれだけの参加があるかは見通せない。
 いいたて福祉会の理事長を務める村長の菅野典雄(70)は「互いを思いやる気持ちに期待するしかない」と交渉状況を見守る。

 国は要介護者が住み慣れた自宅や地域で過ごすための地域包括ケアシステムを30年4月までに導入するよう各市町村に求めている。村内の場合、在宅での介護体制が整わない限り、導入は極めて難しい。
 村はデイサービスが住民の帰還とその後の暮らしに欠かせない事業だと考えている。ただ、他市町村でも介護人材不足で悩んでおり、強く言えない事情がある。村健康福祉課長の但野正行(57)は「元々、社会資本が充実しているとは言えない地域に原発の被害が重なった。人手不足はすぐに解消はできない。国は介護福祉士が少ない地域でもサービスを行えるシステムを考えてほしい」と訴えている。(敬称略)