営農再開に 二の足 見えない安定収入 農業再生(下)

楢葉町の休耕田。避難指示が出された12市町村では営農再開に二の足を踏んでいるケースも多い

 東京電力福島第一原発事故に伴い住民が避難を強いられた地域で、農家が営農再開に二の足を踏んでいる。国の施策は農機具購入費補助など再開段階の支援策にとどまり、将来の経営が見通せないためだ。農業関係者は安定した収入が見込める仕組みや計画を打ち出すよう国に求めている。
 避難指示が31日に解除される川俣町山木屋地区の菅野源勝(げんかつ)=(69)=は収穫した作物にどれほど値段が付き、量が売れるのか予測できず、再び農業で生計を立てる踏ん切りがつかない。
 原発事故前は水稲や大豆などを栽培していた。原発事故で下落した県産農作物の価格はいまだ全国平均まで戻っていない。地区には意欲はあっても営農再開をためらっている農家が多いという。「国は安心して営農し続けるための対策を考えてほしい」と注文する。

 県は避難区域が設定された12市町村の農家の営農意欲は高いとみている。12市町村の認定農業者を対象に県が昨秋実施した調査では、回答者522人のうち322人(62%)が昨年11月中旬までに営農を再開し、122人(23%)が再開を望んだ。
 回答者の要望で最も多かったのが個人・小規模でも対象となる補助事業の創設(145人、28%)だった。風評対策や販路確保の支援(137人、26%)が続き、再開後の収入面を不安視する意見が目立った。
 県は国の交付金を原資に基金を造り、12市町村で営農を再開する兼業を含めた農家や法人に農業用機械や設備購入費の4分の3まで補助する事業を1月に始めた。販路回復面では12市町村の農産物を県内外の流通関係者らに直接PRする事業を29年度に実施する。国は営農再開の出発点に立つ支援に軸足を置く一方、農家の希望する中長期的に経営が見通せる具体的な施策は示していない。
 農林水産省の担当者は「まずは営農を再開してもらう必要がある」と強調し、12市町村の営農継続策を講じる可能性について「現時点で何とも言えない」と明言を避ける。経営規模の拡大に意欲的に取り組む認定農業者らに機械購入費を補助する全国共通の事業などを活用するよう促すが、対象が限定される。

 農業経済学に詳しい福島大経済経営学類教授の小山良太(43)は「原発事故で低下した『産地の価値』を向上させる取り組みを県やJAなどが強化できるよう、国は財源面で支援すべき」と指摘する。市場の需要に基づく生産・販売プランを構築し、年間を通じて収入が安定する仕組みができれば、意欲のある生産者の再就農につながると説く。
 南相馬市や飯舘村などを管轄しているJAふくしま未来そうま地区本部営農経済担当部長の西幸夫(56)は「高齢化が加速している避難区域で取り組める営農計画を打ち出してほしい」と国に訴えている。(敬称略)