(1) 第1部 中山間地で 西会津町奥川地区(1)支え合い、雪と共生


東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から七年を迎える二〇一八年が幕を開けた。震災と原発事故は本県が従来から抱える少子高齢化や人口減少といった課題を浮かび上がらせた。地域コミュニティーの維持が危ぶまれる中、次世代へつなぐ新たな動きが生まれている。たくましく生きる人たちの姿を見つめ、古里福島で生きる意味を問い直す。(文中敬称略)
ザッ、ザッ、ザッ…。二日午後、西会津町奥川地区の山あいの集落にスノーダンプで雪を削る音が響く。「去年の暮れは雪が多かったなあ」。早朝から仕事だった五十嵐茂子(67)は自宅前の池に雪を投げ入れながらつぶやいた。スノーダンプに載せた雪の重みが腰にこたえる。玄関先の雪片(かた)しが日課だ。「雪を見ると会津に暮らしていると実感すんだ。大変だけんど、うまく付き合っていくしかねえな」
五十嵐は一九九九(平成十一)年に夫伝悦(でんえつ)=当時(51)=を亡くした。三人の娘は結婚し喜多方市で暮らす。同居していた義父母は既に他界し、三年前から一人暮らしをしている。地区の積雪量は多い年で二メートルを超える。母屋や車庫など五棟が並ぶ自宅敷地の除雪は容易ではない。
ただ、苦労ばかりではない。隣の集落の若者が五十嵐を気遣って様子を見に来るようになった。早朝に家の周りを自主的に除雪してくれたこともある。五十嵐は「助け合いの心が身に染みる」と感謝する。
人口約七百人の奥川地区は六十五歳以上の住民の割合を示す高齢化率が60%余りに達し、町全体の44%を大きく上回る。地区の約三百五十世帯のうち三分の一の百二十世帯が一人暮らしだ。町中心部の野沢地区とは二十五キロほど離れている。町地域おこし協力隊の荒海(あらうみ)正人(26)は「生活環境は厳しいが、住民にはそれを克服する生活の知恵や工夫、助け合いの精神が根付く」と説明する。
住民の高齢化に伴い、除雪時の安全確保も課題となっている。二〇一六年度に県内で雪による家屋倒壊や雪下ろし中の事故で亡くなった六人のうち、三人が西会津町民だった。除雪の危険性を住民に再認識してもらうため、町は昨年十二月、除雪作業時の注意点や必要な装備をイラスト入りで解説する「冬の暮らしガイド」を作製した。
一方、町内では除雪を楽しみと捉える逆転の発想で「ジョセササイズ」の取り組みも始まっている。ジョセササイズは除雪とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語。町の若者が中心となり、除雪を交流人口拡大や地域活性化につなげる運動だ。雪との共生に向け、模索が続く。