(14)【第2部 産業づくり】田村市(下)観光客の呼び水に


国産ホップの生産・販売会社「ホップジャパン」は、田村市船引町のテレワーク拠点「テラス石森」に事務所を置く。四月下旬、社長の本間誠(52)は事務所に届いた箱を開け、栽培用に輸入した米国産ホップの苗木の手触りを確かめた。
地元産ホップを原料とするクラフトビール造りに向け、昨年は市内三農家に委託し計二十アールで試験栽培した。今年は一ヘクタールまで耕作地を広げる計画で、協力農家には苗木を無償提供する。「経費を減らすため、今後は苗木を自前で育てないと」。本間の表情に期待と焦りが交じる。
田村市内はかつて全国有数の葉タバコ生産地だったが、農家の高齢化や後継者不足、東京電力福島第一原発事故に伴う出荷規制などで耕作放棄地が増えている。観光面でも原発事故による風評の影響が続き、市直営の観光施設「グリーンパーク都路」(都路町)では、震災前に年間四千人以上いたバーベキュー小屋の利用者が二〇一七(平成二十九)年度は五十人ほどに落ち込んだ。
市内では葉タバコ生産以前にホップ栽培が行われていたことを踏まえ、本間はビール事業を展開する場所に選んだ。農家の収入を安定させるため、農家が栽培したホップは本間の会社が市場価格より高く買い取る。グリーンパーク都路に醸造所を整備し、地元産ホップでクラフトビールを造って販売する。他企業と協力し、ビールを使った化粧品やシャンプーなどの加工品を製造・販売する計画もある。醸造所ではビールのイベントを開き、観光客の呼び水にする。
栽培農家は「ホップで生計を立てられる農家が増えればうれしい。新たな特産品としてビールの人気が高まれば、観光客も増える」と期待する。市はグリーンパーク都路の一角を醸造所の建設場所に提供するなどして支援する。
今後はホップの収量確保や醸造技術の確立、事業資金確保、他の地ビールとの差別化などが課題となる。クラウドファンディングでの資金調達を目指す。本間にとっては地元の支援が心強い。「地元の食材で作ったおいしいものを食べて飲んで生活できる場所をつくる。田村市から新たなビール文化を発信し、地域を元気にしたい」(文中敬称略)
※田村市の葉タバコ生産 東京電力福島第一原発事故の影響で市内の生産者は一時、休作に追い込まれた。東日本大震災前に決定していた2011(平成23)年度の生産契約数は438人・約336ヘクタールだったのに対し、2012年度は213人・約213ヘクタールと大きく減少した。2018年度は158人・約115ヘクタールまで減った。南東北たばこ耕作組合は日本たばこ産業(JT)が2011年に実施した葉タバコの需給調整や生産者の高齢化、後継者不足が減少の要因とみている。