(16)【第2部 産業づくり】南相馬市小高区(下)企業連携、販路開く


二〇一六(平成二十八)年春、仙台市の農業生産法人「舞台ファーム」から南相馬市に対し、農業復興を支援したいとの申し出があった。南相馬市の担当者は、小高区で大規模営農を目指して農業法人設立を準備していた佐藤良一(64)を紹介した。以来、月一回のペースで関係者が集まり連携策を協議した。
二〇一七年一月、佐藤らが小高区内七つの営農組織で農業法人「紅梅(こうばい)夢ファーム」を発足させると、舞台ファームは苗の提供や農作業の人材派遣、コメの販路確保などの支援を決めた。
紅梅夢ファームは二〇一七年四月から小高区で本格的に稲作を再開した。舞台ファームから苗の提供や農作業の人材派遣を受け、二〇一七年は約九ヘクタールに「天のつぶ」を作付けした。収穫したコメ約五十八トンは、舞台ファームと生活用品製造・販売業「アイリスオーヤマ」(本社・仙台市)が出資する「舞台アグリイノベーション」(本社・仙台市)が全量を買い取った。放射性物質検査を経てパックご飯に加工し、アイリスグループのホームセンターや、コープ東北(本部・仙台市)の店舗で販売した。県境を超えた企業同士の連携で販路が開けた。
二〇一八年度は水稲約二三・五ヘクタール、大豆約十三ヘクタール、ナタネ約五・六ヘクタール、タマネギ約二・四ヘクタールを作付けする。将来的に水稲、畑作合わせて約五百ヘクタールまで作付けを広げる。運営資金の確保が当面の課題だ。原発事故による風評を払拭(ふっしょく)して販路を全国に広げ、収入増につなげるため、農産物の安全性を評価する国内版認証「JGAP」の取得を目指す。
紅梅夢ファームの取り組みに地元も期待している。南相馬市小高区農林水産係の担当者は「今後、規模拡大で農地の維持管理が課題になる。補助事業を紹介するなど市も支援していく」と話す。今春、地元の相馬農高卒の男女二人が入社した。佐藤は「古里で農業をやりたい」との二人の熱意を感じて採用した。
「就農者の減少は小高区だけでなく日本の農業全体の課題だ。集落を超えた大規模営農と企業連携による販路確保の取り組みは、被災地にとどまらず日本の農業再生のモデルケースになる」。佐藤は農業の力で古里を元気づけるとの決意を新たにしている。(文中敬称略)
=第2部・おわり=