(18)【第3部 地域医療の挑戦】福島医大 透析支援網、拡大を


福島市の福島医大付属病院の透析室。ベッドが並ぶ部屋の一角で腎臓・高血圧内科学講座主任教授の風間順一郎(57)がタブレット画面に話し掛ける。「調子はどう? 顔色は問題なさそうだね」。相手は約五十キロ離れた南相馬市立総合病院にいる透析患者だ。
病院間を結ぶ遠隔診療システムを活用した透析治療が始まり、五カ月余りが過ぎた。地元の病院で治療できるようになり、それまで県外や中通りに一時間以上かけて通院していた患者の負担が軽減された。利用増を見越し、福島医大は午前のみの診療を午後まで延長する方向で調整している。
風間は二〇〇一(平成十三)年から二〇一一年四月まで会津若松市の竹田綜合病院で夜間透析の非常勤医を務めた。夜中に透析を終えた患者が吹雪の中を奥会津へ帰る姿を幾度も目にし、「過疎地域の窮状に危機感が募った」と振り返る。
昨年七月、横浜市で開かれた日本透析医学会に出席し、医療機器メーカーが展示した病院内通信システムを見て遠隔診療を思いついた。同じころ、南相馬市立総合病院から新たに透析患者を受け入れたいと相談を受け、遠隔診療システムを構築した。
システムの運用を始めて以来、患者の大きなトラブルはない。ただ、患者の状態をより正確に把握するために脈拍音を確認するデジタル聴診器機能を搭載する必要があると痛感する。解決すべき課題が見えてきた。
県内には透析施設が約八十カ所あるが、ほとんどが都市部に集中している。奥会津地方にはなく、相馬地方は六カ所、南会津地方は一カ所しかない。風間は医師の高齢化や採算性の問題などの対策を講じなければ治療施設は減少していくとみている。
新たに二病院が県内で遠隔診療による透析治療を検討している。電子カルテやカメラなどの初期投資が必要になるが、「医大が助言すれば、専門医がいない病院でも安全な透析は可能」と風間は強調する。将来、福島医大内に遠隔診療のオペレーションセンターを設け、県内に透析治療支援の網を張り巡らせたいとの構想を描く。
ただ、県内では福島医大に対し透析医の派遣を求める声が根強い。風間は南相馬市での患者を増やすなど成功例を積み上げるとともに、過疎地域の医療機関に出向き、遠隔診療の安全性と有効性を地道に訴えながらシステムの普及を目指す。「遠隔診療は透析以外の治療にも応用が可能で、中山間地の高齢化と医師不足を解決する一つの手段になる」。県民の命と健康を守る挑戦は続く。(文中敬称略)