(4)若者の意見をくんで 福島で廃炉見届ける

トリチウム処理水について意見を述べる塩沢さん(右)と田山さん
トリチウム処理水について意見を述べる塩沢さん(右)と田山さん
処理水の処分方法について考える瀧さん
処理水の処分方法について考える瀧さん

 福島市金谷川の福島大キャンパス。新型コロナウイルス感染拡大の影響で前期授業を全て遠隔で行ったため、春から学生の姿はほとんどない。

 福島市のNPO法人ドットジェイピー福島支部のメンバーは将来のまちづくりに議論を交わす。メンバーの一人、福島市出身で福島大経済経営学類二年の塩沢健太郎さん(19)は昨年夏、東京電力福島第一原発を初めて訪れ、タンクに圧倒された。

 国内外の通常の原発では放射性物質トリチウムを希釈した上で海に放出していることを知り、「海洋放出もやむを得ないのではないか」と受け止める。その上で、放出場所は「福島の海ありきではなく、慎重に幅広く検討するのが前提だ」と主張する。

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 同じメンバーの福島大現代教養コース四年の田山和季さん(22)は海洋放出に懐疑的だ。

 いわき市で生まれ育った。浜通りの農林水産業に対する風評を肌で感じてきた。「震災から九年を経て、地域がやっと活気を取り戻し始めているのに、復興の歩みを妨げてはいけない」と力を込める。ただ、「いたずらに風評を恐れるのではなく、正しい情報発信で風評の根源を絶ちきる努力も必要」と加えた。

 二人は卒業後も地元に残ろうと考える。「福島が好きだからこそ、この地で学び、生きていくことを選んだ。廃炉は今後三十年から四十年かかる。まさに自分たちの世代が見届ける問題だ。若者の意見を発信していきたい」と声をそろえた。

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 食農学類二年の瀧康司さん(20)は大学近くのアパートの一室で、以前のような学生生活に戻ることを願う。インターネットで、福島第一原発で増え続けるトリチウムを含んだ処理水に関するページを開く。

 「処理水の行方は福島だけの問題ではない。原発を抱える全国の自治体にも関係するのではないか」。率直な疑問を投げ掛ける。

 東日本大震災と原発事故が起きた九年前、静岡県焼津市の小学四年生だった。自宅は中部電力浜岡原発から三十キロ圏の線上にある。南海トラフ巨大地震の不安もあり、震災と原発事故が起きた福島に関心を持った。

 農業に携わりたいと、昨年四月に新設した福島大食農学類に入学した。田畑で農業実習を積むとともに各地に赴き、復興の現状に理解を深めてきた。飯舘村で黒いフレコンバッグを見たとき、衝撃を受けた。

 廃炉はどのぐらい進んでいるのだろうか。復興を進めるには、たまりつづける処理水の解決が不可欠だと認識する。「地域を支え、明るい未来を作るには若者の力が必要。自分たち若者の意見を届けたい」と真摯に廃炉に向き合う。