今を生きる 侍大将感謝の口上 避難先から"出陣"決意新た

■相馬野馬追標葉郷 脇坂博さん 63
「相馬野馬追の八騎、無事到着しました。震災では多大な支援ありがとうございました」。古殿町で9日行われた古殿八幡神社例大祭の祭典行列に、相馬野馬追の標葉郷(しねはごう)の騎馬武者八騎が加わった。武者の取りまとめ役、脇坂博さん(63)が馬上から口上を述べると、盛大な拍手が起きた。
参加したのは武者8人と世話人3人。いずれも自宅が原発事故による警戒区域内にあり、各地で避難生活を送っている。
脇坂さんは浪江町川添で脇坂工業を営んでいたが、現在は会社や生活基盤を二本松市に移した。一時帰宅で家に戻った際、江戸時代から伝わる先祖伝来のよろいを持ち出し準備を整えた。8頭の馬は行列への参加を呼び掛けてくれた古殿町のNPO法人馬事振興会の関係者が用意した。
脇坂さんは昨年の野馬追で標葉郷の武者の現場指揮官、筆頭軍者を務めた。今年はさらに上役の侍大将を務める予定だったが、出陣かなわず南相馬市原町区で催された野馬懸で警備を務めた。
今回はまさに念願の"出陣"。馬上では今も行方不明となっている浪江町請戸に住んでいた友人が頭をよぎったという。友人は野馬追にも協力してくれていた。「楽しむというより(例大祭に)協力したい思い。友人のためにも前に進まないと...」。複雑な思いを抱えつつも、自らを鼓舞し馬を進めた。
野馬追では騎馬武者約500騎が行列をつくる。例大祭の祭典行列の参加者は約150人だが、沿道から寄せられた声援、拍手は野馬追の時と変わらず温かく心に染みた。「来年は野馬追ができるよう願っている」。晴れやかに出陣できる日に向け、一歩ずつ歩みを進めていこうとしている。