今を生きる 陶器に絆の尊さ込め 郡山の避難先で再開

窯出しした陶器の仕上がりを見る陶さん=14日

 「避難生活でお世話になった人たちに、感謝の気持ちを込めた作品を贈りたい」。浪江町の大堀相馬焼・陶徳(すえとく)窯10代目の陶(すえ)富治さん(70)は避難先の郡山市の借り上げ住宅で陶芸を再開し14日、初の窯出しを迎えた。窯を開けた直後に鳴る、上薬にひびが入る際の透き通った音色を聞いてもらうため、近所の住民を招き、感動を分かち合った。
 郡山に移ったのは6月。借り上げの生活は孤立しないか不安だった。しかし、地元の人たちは生活の情報を懇切に伝えてくれた。料理を持ち寄ってくれる人も。親戚や商売仲間らは見舞いを寄せた。
 陶芸から完全に切り離された環境で、何がしたいか自らに問うと、浮かんだのはやはり陶芸だった。借り上げ住宅の敷地内には偶然工場があり、「ここなら作れる」と確信した。
 町の許可を得て、自宅からろくろや粘土を運び出した。材料の配合の割合は頭の中、技術は体に染み付いていた。窯は従来の十分の1ほどの大きさのガス釜を購入した。新しい窯での制作は手探りだったが、素焼きで調整を重ね、満足いく作品に仕上がったという。
 「窯も器も小さいが、1つ1つにありったけの思いが詰まっている」。余熱の残る器をそっと取り出し、宝物のようになでた。上薬のひびに墨を入れ、仕上げた作品を集まった住民に手渡した。
 震災前は年間5000個以上を出荷していたが、今後は手売りを中心に続けていくつもりだ。触れ合いの場として陶芸教室も開くという。「震災を通じ絆の尊さを知った。地域との交流を大切にしていきたい」。
 古里から離れた地で、陶芸家としての新たな一歩を力強く踏み出した。