【避難準備区域解除】除染、雇用、生活は 「若い人たち帰ってこない」、「国が面倒なくしたいだけ」

 緊急時避難準備区域が約5カ月ぶりに解除された30日、区域が設定されていた広野、楢葉、川内、南相馬、田村の5市町村の住民の帰還に向けた動きは鈍かった。除染や医療、雇用の確保など、住民が避難前の生活を取り戻すには解決すべき課題が山積する。解除された区域をルポした。(取材班)

■広野 人がいない

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草が生い茂った住宅街。人の姿はほとんどなく、静まりかえっていた=30日午前10時30分ごろ

 東京電力福島第一原発に向かう広野町の6号国道を作業車両、警察車両がひっきりなしに通り過ぎていく。警戒区域に最も近いコンビニエンスストアは作業員らで混み合っていた。一方、国道から外れた住宅街は静まりかえっていた。草が生い茂った庭が家主の不在を象徴する。

 町の防災無線が、町役場付近の放射線量が毎時0・42マイクロシーベルトだったという測定結果を告げた。5月に自宅に戻ったというパート従業員伊藤幸子さん(52)は「人がいないので最初は気持ち悪かったが、もう慣れた」と寂しそうに笑いながら飼い犬に餌をあげた。

 町民約5200人がいまだに避難し、町内に残るのは約300人。ライフラインはほぼ復旧し、開業している商店や病院、飲食店もあるが、一部にとどまる。「除染がされないうちは若い人たちは町に帰ってこない」。中心部の商店街で金物店を営む渡辺ユワさん(74)は言い切った。

 午後2時ごろ、いわき市と町を往復するバスがJR広野駅に到着したが、乗客はいない。バスを待っていた佐藤義一さん(75)は週1回、町内の自宅に戻ってきているという。「解除は国が面倒をなくしたいだけだ。解除しただけでは住民は戻らない」とため息をつき、生活の場であるいわき市の仮設住宅に向けてバスに乗り込んだ。

■楢葉 緊張感

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物々しい警備が敷かれる楢葉町の工業団地の入り口=30日午後0時10分ごろ

 町南部が区域設定されていたが、今回、解除されたのは警戒区域に隣接する「楢葉南工業団地」のごく一部だけだ。

 団地内にある建設会社。3月下旬ぐらいから働いているという従業員が昼休みで昼食を取っていた。「解除されても何も変わらないよ」。区域解除には関心がなさそうに、午後の作業に向けてご飯をかき込んだ。

 団地入り口には「立入禁止」の看板が立ちふさがっていた。マスク姿の警察官による物々しい警備が続く。写真を撮る記者が身分証の提示を求められるなど、緊張感が漂う。

■川内 雑草だらけ

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田んぼを耕す秋元さん。周囲の田んぼは雑草で覆われている=30日午後4時20分ごろ

 本来なら稲刈りが真っ盛りのはずの田んぼは、高さも色もふぞろいな雑草が、あぜ道まで覆っていた。

 作付けできなかった田んぼを農業秋元義宜さん(74)がトラクターで耕していた。周囲の雑草だらけの田畑の中で、焦げ茶色の地肌が目に付く。「見てくれ。荒れ放題だ」と周囲を指さした。

 主婦井出美穂さん(54)は国道脇の自宅の畑で雑草の刈り払いをしていた。郡山市の借り上げ住宅で暮らしているが、1週間の半分は父一人が残る自宅に戻っている。「村で暮らしたいと思っている住民は解除前から戻っている。残りは村の『帰還宣言』がなければ戻って来ないよ」

 村内を縦断する399号国道は時折、車が行き来するだけ。双葉地方広域消防本部が把握する村内の生活者は一時的な出入りを含め常時300人程度。4月下旬から営業を再開している上川内郵便局を訪れた村民は「解除に合わせて村に戻って来るという人の話は聞かない」と語った。