【県内花卉にも原発事故の影】 花産地化 夢砕かれる 避難で休作、再生困難

東京電力福島第一原発事故は県が進める花卉(かき)の産地化にも深刻な影響を及ぼしている。計画的避難区域の飯舘村はリンドウを中心にした切り花産地として販売額が年間一億円を超えたが、全村避難で休作を余儀なくされた。警戒区域を抱える川内村でも同様の事態に直面しており、県は「壊滅的な打撃」と危機感を募らせる。
■リンドウに打撃
「村をリンドウの一大産地にするのが夢だったのに...」。飯舘村の菅野浩さん(43)は喜多方市の避難先から9月下旬、村を通り掛かった際に自分の畑を目にして言葉を失った。約60アールの畑で育ててきたリンドウは雑草に覆われ、色は薄く、害虫に食い荒らされていた。「手入れさえできれば今年も素晴らしい花を出荷できたはず」とやり切れない思いを口にする。
村内では、JAそうまの飯舘花卉部会のメンバー約80人が県の支援を受け、20年ほど前からリンドウやトルコギキョウなど花卉の産地化に取り組んできた。気象条件に合った品種や栽培方法などの研究を重ねた結果、市場の評価は着実に高まり、近年は年間出荷量が250万本、販売額が約1億5000万円に上っていた。「花卉産地化のモデルケースに」「販売目標は3億円」。そんな農家の夢は原発事故で打ち砕かれた。
■計画頓挫
川内村では村、村農業委員会、JAふたばなどでつくる村耕作放棄地対策協議会がリンドウの産地化を目指し、県の補助を受けて今年度からモデル事業に取り組む予定だった。
約30アールの耕作放棄地を活用し、リンドウの栽培を村内の花卉農家に委託。3月に除草などに取り掛かったところで原発事故が起き、計画は入り口段階で頓挫した。緊急時避難準備区域の設定は解除されたが、警戒区域は依然残る。村の担当者は「これからどうすればいいのか、先が見通せない」と嘆く。
■害虫や連作障害
県や村、栽培農家らが今後の影響を懸念するのは、リンドウなどの株物は一度休作すると再生が困難なことが背景にある。
県園芸課などによると、リンドウは畑に株を定植した後、7~8年にわたって毎年花を咲かせる。
しかし、1年間休作すると害虫や病原菌が繁殖し、生産を再開するのが困難になる。仮に同じ畑に植え替えようとしても連作障害を引き起こすため質のいい花は育たない。
別の畑に植えた場合、生産を採算ベースに乗せるのに3年程度かかる。その上、今回は原発事故の影響で土壌の除染が必要になる可能性もある。関係者は「これまで産地化のノウハウを蓄積してきた。必ず再生させる」と話すが、産地復活への道は険しい状況だ。
【背景】
県内の平成21年の花卉作付面積は724ヘクタール。このうち、切り花作付面積は556ヘクタールで、リンドウは40ヘクタール。リンドウは南会津地方が県内最大の産地となっているが、高齢化に伴い農家戸数や作付面積は減少傾向にある。このため、県は相双地方で産地化を推進し、JAそうま管内の平成22年の栽培農家は52戸(20年比1戸増)、栽培面積は5・59ヘクタール(同0・14ヘクタール増)に拡大した。しかし、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故で休作を余儀なくされる農家が出るなど、産地の維持が課題となっている。