【コメ出荷全県可能】売り込み正念場 風評被害どう払拭

県が県内全域の一般米に「安全宣言」を出した12日、農家や農業関係者に全県で出荷できることへの安堵(あんど)感が広がった。ただ、風評被害をどう払拭(ふっしょく)して消費者の安心を確保するのか、不安は依然消えない。県産米の売り込みはこれからが正念場だ。
■安堵と不安
「自分のコメが原因でみんなが出荷できなくなったらと思うと恐ろしかった」。予備調査で1キログラム当たり500ベクレルの放射性セシウムが検出されたコメを収穫した二本松市の旧小浜町の農業男性(56)は胸をなでおろす。
予備調査で自分のコメが県の定めた基準値の200ベクレルを超えたため、市内全域が重点調査区域になった。本調査の結果が出るまで不安な日々を過ごしてきた。「地区の他の生産者が出荷できることになってよかった」と話す。ただ、本調査の結果は470ベクレルで出荷制限は免れたものの、「もう田んぼは震災前のようには戻らない」と東京電力と国への不信感や怒りを募らせる。
二本松市のJAみちのく安達の倉庫には新米が入った袋がうずたかく積まれている。本来なら検査後に等級を示す判が押され、次々と出荷される時期だが、本調査終了まで手が付けられなかった。収穫したコメを運び込んだ市内の農業鈴木佐太雄さん(67)は全市で出荷可能になったことを知り、「少し安心できた」とつぶやいた。
郡山市のJA郡山市稲作部会長の佐久間俊一さん(56)は12日も自分の水田で稲刈りに励んだ。今年のコメは品質、味ともに良質だと自信を持って言えるが、風評被害への心配から豊作を素直に喜べない。「事故さえなければ」。同じ言葉が頭の中を巡る。
喜多方市熱塩加納町の農業大竹久雄さん(58)は「500ベクレル以下なら安全と言われても消費者は納得しないだろう」と「安全宣言」を冷ややかに受け止める。「500ベクレルの暫定基準は高すぎる。県独自に10ベクレル程度に下げ、出荷できない分は全部賠償させるぐらいの政策をとるべき」と訴えた。
■独自対策
消費者の安心を確保するため独自対策に乗り出す動きも広がっている。須賀川市の農業生産法人代表の伊藤俊彦さん(53)は「行政の対応だけでは間に合わない。自分たちでできることはやらなければ」と強調する。
生産法人は実験田を設け、放射性物質が稲に移行するのを防ぐ対策を講じたほか、検査機器を導入して出荷するコメの放射性物質を測定し、納品書に結果を添付している。「自分の家族を含めて健康を守りたいという思いで取り組んでいる。適切な情報開示が安心につながる」と説明する。
会津若松市のコメ集荷業「山本商事」は簡易測定キットを使った自主検査を進める。全生産者のコメを検査する方針で、結果はインターネットなどで公表し、安全・安心をアピールする。JA郡山市は放射性物質分析器を購入し、15日から自主検査を始める。機材購入費や設置改修費、人件費などを含めると費用は2千万円を超える見込み。国や市の補助金を活用した上で、残りの負担額は営業損害として東電に全額請求する方針だ。
■来月販促ヤマ場
県は今年産米の流通が本格化する11月を県産米の販売促進活動のヤマ場とみている。ただ、関係者の一人は「500ベクレルの数値が出た二本松市のコメの問題で、首都圏の消費者に県産米への一層強い不信感が生まれてしまった」と懸念を示す。
県産米の消費拡大には、全国の数あるコメの中から県産米を選んでもらうための絶対的な消費者の「安心感」が必要だ。県は放射性物質の検査結果の具体的な数値をアピールして理解を促す方針だが、一部消費者との間で安全性に対する考えの隔たりも生まれている。
「放射性物質は『不検出』でなければ買わないと言われた」。県外でコメの販売交渉をした農業団体の幹部の一人は嘆く。国の暫定基準値の500ベクレルに対し、消費者からは「少しでも検出されたコメは抵抗がある」との声も出ているという。「500ベクレルを下回っているので安全」とアピールする県の説明が、こうした消費者にどの程度、説得力があるかは不透明な状況となっている。
【背景】
県はコメの安全性をアピールするため、一般米の本調査のサンプル数を農林水産省の方針の約2倍に当たる1174地点に増やして詳細にチェックしてきた。会津若松市は県の調査で31検体全てで放射性物質が未検出だったが、独自に県の約7倍の約220地点で検査している。一方、二本松市は国に全袋検査を求めている。
また、全農県本部は一般米について銘柄別に独自の検査を実施し、放射性物質が未検出の銘柄を優先販売する方針を示している。
消費者、思い複雑 「自分は安心でも孫には...」

県内産米に対しては、消費者にも安心と不安が入り交じる。県内のスーパーでは新米の売れ行きが鈍い所もあり、関西では販売を見合わせる小売店も。安全宣言が出されたコメを今後、販売・消費につなげるには複雑な消費者心理にどう応えるかが鍵を握る。
■県内産を注文
北塩原村の自営業吉岡和夫さん(63)・登美子さん(58)夫妻は毎年、会津坂下町の農家からコメを購入している。基準値以下の結果に登美子さんは「安心できる結果」と話す。ただ、自分はそれほど気にせず食べられても、福島市にいる孫などに対しては気を使うという。「遊びに来たら県外産のコメを出すことになると思う」と明かす。
福島市の看護師菅野悦子さん(59)は毎年、市内の農家からコメを買い、長男夫婦にも分けてきた。「安全という検査結果なら信じるしかないが、長男夫婦には勧められない。今年は自分たちだけで食べることになりそう」と複雑な様子だ。
一方、福島市の主婦(54)は県外産米に切り替えた。「基準値以下といっても、微量の放射性物質が含まれているコメもある。県内の農家の気持ちを思うと申し訳ないが、健康には替えられない」と真情を吐露する。
■支援策必要
福島市の中心部にあるスーパーのコメ売り場には県内産と県外産の新米が並ぶ。品ぞろえは例年と変わらないものの、県内産の販売数は例年よりもやや少ないという。
「いつもは『県内産の新米はいつ並ぶのか』という問い合わせが多いが、今年はあまりない。代わりに『県外産はあるか』と聞かれることがある」と担当者は打ち明ける。
郡山市の米穀店経営者(59)は「大部分の人は安全性を説明すると納得するが、小さな子どもがいる母親は本県産というだけで拒否反応を示す人が多い」と指摘する。その上で「一過性のパフォーマンス(風評被害対策)ではなく、国の関係機関が年間を通して買い上げるなどの支援策が必要」と注文する。
こうした中、スーパーチェーンの関係者は「地域の企業として今後も地産地消を打ち出す」と力を込めた。
■敬遠の動きも
県外業者の反応はさまざまだ。多くの県産米を扱ってきた東京都内の大手コメ卸売会社の担当者は「検査をクリアしている以上、これまで通りの価格、規模で購入するのは当然」との考えを示す。
一方、大阪市のある小売店は今年、本県産米を販売する予定がないという。男性店長は「放射能の影響を心配する客が多く、福島県のコメは売れない」と理由を語る。「『放射能は大丈夫か』と尋ねられても100%大丈夫かどうか自分も分からない」とも話した。